正宗白鳥流売り出し論

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正宗白鳥流売り出し論

 ある時、文学志望の青年が白鳥の家に押しかけ「文壇で出世するにはどうすればよいか?」と問い詰めた。
 普通の人なら「良い作品を」「良い師匠を」というだろうが、白鳥は違った。
「大家の悪口を盛んに書きたまえ」 
 青年は驚き、「大家を軽蔑せよという意味ですか?」 
 正宗白鳥一笑もせず、

「いや。悪口を言われた大家は少なくとも君の名前だけは覚えるだろう」

『合本月報』より

 文壇きっての名批評家と謳われた正宗白鳥は、その明瞭な批評同様にすっぱりと皮肉や批評を言う人物であった。

 その鋭さは、一見毒舌のようできっちりとツボを押さえている名人芸。「正宗」の名にふさわしい。

 作品に深入りする事なく、えこひいきをする事もなく、徹底的な傍観者・読者的な立場で、物を論じ続けた点は異色といえる。

 歯に衣着せぬ批評と評価で、多くの作家を畏怖させたが、それだけに読みごたえは十分あり、小説以上に面白い評論が結構あったりする。

 その冷笑・傍観的な態度から、一部界隈からひどく嫌われたものの、彼を慕う人は多く、文芸評論の大家・小林秀雄は「天才」と絶賛し、円地文子や川端康成等といった文豪も、若き日の正宗白鳥に激賞・叱咤激励を受けて、スランプを脱却したり、名作を生み出した事例も多々ある。

 そんな現実主義者の正宗白鳥の「売り出し理論」もまた、シニカルでスパイスの効いた物言いではないだろうか。

 ある意味では、「冷笑的」であるが、一方の見方次第では今日の炎上商法・喧嘩商法的な事を見通しているとも言えなくはない。

 今のご時世を正宗白鳥が見たらなんと論じるだろうね。

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