潔癖なる岩野泡鳴の原稿料計算

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潔癖なる岩野泡鳴の原稿料計算

 岩野泡鳴は、人間関係の乱れや奇行に対する批判の目も殆ど気にしない、実に大雑把な人間であったが、原稿料だけは別であった。
 里見弴が、同人誌『人間』を作った際、岩野泡鳴に原稿を頼んだ。原稿は書いてくれたが、原稿の横に仰々しい書き込みがあった。

 いわく、
「書き込みが○字、消しが○字、差し引き○字、提出は○枚であるが、実際は○枚であるから、一枚足して原稿料をくれ」
 これには里見弴も開いた口が塞がらなかったそうである。
 後年、この話を民俗学者で岩野の友人であった柳田国男の前でぼやいてみせると、

「岩野君までそうでしたか。随分大雑把な人でしたが」。

『泉鏡花座談会』

 岩野泡鳴は、自然主義文学界隈の中でもトップクラスの堕落的な性格の持ち主で、不倫はする、不義理はする、戯言は吐く、心中未遂はする――と欲情や愛欲の地獄の果てまで行ったような人間であった。

 そうした経験を全て小説に消化し、人気を得たのだから、天才と狂気は紙一重、といった所であろう。

 大雑把で作家という作家から顰蹙や呆れを買っていた岩野泡鳴であったが、原稿料だけはきっちりしており、里見弴を驚かせたというのだからおかしい。

 何事につけても、「金あればこそ」という哲学でも身に着けていたのだろうか。

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