コードで引っ張られた鏡山の行灯 (都新聞芸能逸話集)

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コードで引っ張られた鏡山の行灯

京都南座の顔見世興行「鏡山」で尾上部屋自害後、友右衛門の岩藤が入らうとすると、行燈が前に出過ぎてゐて邪魔になる、黒衣が出て位置を直せば何んでもなかつたのを、咄嗟の場合、コードを引っぱったので行燈がスル/\とひとり歩き、満場ドツと来た中に口の悪いのがいて、見ていてごらん、いまにあの行燈から尾上の幽霊が出まツせ

1934年12月10日号

 鏡山は歌舞伎のドル箱というべき演目である。「女忠臣蔵」と異名を取ったほど、女ばかり出てくる作品である。こればかりは女方の芸や腕が物を言う。ただ、岩藤だけは立役から出るのが多い。憎々しい役ゆえ、とげとげしい芸風や風貌の方が好まれるようである。

「忠臣蔵」で例えられたように、女の中心を描いた話である。佞臣と結託してお家転覆をはかる局岩藤は、嫉妬と計画の邪魔になる中老尾上に強く当たり、喧嘩を吹っ掛ける。これを尾上の家来のお初が押しとどめ、岩藤の無理難題をなんなくこなす。思わぬ横槍に激昂した岩藤は、家来にお家の重宝を盗ませ、その重宝を入れる箱の中に尾上の草履を入れる。重宝の受け渡しの際に、岩藤は「尾上は自分に罪をなすりつけようとする」と一方的に断罪し、彼女を草履で殴りつける。尾上は絶望の末に自殺をする。尾上の自殺を知ったお初は、岩藤の悪事の証拠を得、彼女に勝負を挑み、見事に打ち取る――というもの。

「尾上部屋」は岩藤の悪っぷりが見事に花開くシーンである。自殺して虫の息の尾上を嘲り笑い、お家の重宝・旭の尊像を奪い取って何食わぬ顔で消えていく――と貫録が求められる。

 ここでは行灯が尾上部屋のシンボルとして使われるわけであるが、それがコードでヨタヨタ動いては、折角の岩藤も困ったというより他はないだろう。

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