嫌いなものは電話と……の斎藤緑雨

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嫌いなものは電話と……の斎藤緑雨

 緑雨は好き嫌いが激しく、嫌いとなれば如何なる急用でも手に取りたくない偏屈な所があった。
 ある時、二六新聞に勤める坂本紅蓮洞を呼び出した緑雨、紅蓮洞が「急用か」と飛んで出ると、緑雨は平然と
「いや、急な用ではないが代わりに電話をかけてほしい」
 という。
 紅蓮洞呆れて、
「電話をかけることを君が知らないはずがないだろう」
 とボヤくと、緑雨は平然と、
「電話が嫌だからこうして君に頼んでいるのだ」。
 緑雨の徹底的な潔癖を前に、紅蓮洞、
「妙なものが嫌いだね。他に嫌いなものはあるのか」
 と尋ねると、緑雨は吐き捨てるように、
「電話、済生学舎の生徒、壮士芝居」。

坂本紅蓮洞『斎藤緑雨君』

 斎藤緑雨は、好き嫌いの激しい性格で、好きなものはハンカチと鳥鍋、嫌いなものは……と好きな物へは執着し、嫌いなものは忌避する所があった。

 そういった感性もまた批評や毒舌に生かされたのかもしれない。近代的な代物が嫌いかと思えばそうでもなく、ハンカチやハイカラ鍋などを好みとした点でも、単なる旧弊ではないことがわかる。

 こんな話を奇人で知られた坂本紅蓮洞にして見せる所に、不思議な面白さがある。

 因みに、緑雨の嫌った済生学舎とは今も残る「日本医科大学」の前身で、日本初の私立医学校であった。

 ここから野口英世や吉岡弥生といった優秀な医療者や学者が巣立った一方で「誰でも医者になれる」という悪い風潮も流行り、田舎の子女や若旦那が、金時計やハイカラな服装を身にまとって、如何にも金持ちの道楽然で通う偽善振りも問題になっていたという。

 腐っても藩医の倅として生まれ、一度は医師を志した身からすれば、チャラチャラとした医者志望の若者など憎悪以外の何物でもなかったのではないか。

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