応募していないのに受賞メダルをもらった大須賀乙字

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応募していないのに受賞メダルをもらった大須賀乙字

 俳句界きっての評論家・論壇屋と知られた大須賀乙字。その気性の荒さと批評の数々は、良くも悪くも正岡子規死後、「伝統俳句」「新傾向俳句」と別れた俳句を象徴するものとして、今なお評価されている。
 理知的で議論を愛した乙字であるが、趣味は「絵画」というなかなか芸術家肌をもった人物であった。それもちゃっちな落書きではなく、装丁やデザインで食っていけるほどの技術力と美学を持っていた。
 未亡人によると、こうしたデザインや絵画で家計を支えていた時期もあるらしいので、その腕は大したものだったのだろう。
 そんなある時、大須賀乙字は絵をかいて、当時の友人であった臼田亜浪に見せた。感心した亜浪、何を考えたのか、乙字に内緒で――乙字の名前と住所を書いて、絵画コンクールに出展してしまった。
 うまいものだから、当然審査員たちも感心して、いい点を与える。結果、この絵が入選してしまい、メダルが贈られる事になった。
 メダルをもらった乙字、身に覚えのないことに、目をぱちくりとするより他はなかった。

『近代文学研究叢書19』

 大須賀乙字は、河東碧梧桐門下の俳人として出発しながらも、碧梧桐の思想についていけなくなり、離脱。臼田亜浪と行動を共にするが、これも後に離別、という転々たる人生を送った(こういう態度故に嫌う人も結構いた)。

 一方、俳句の情熱は本物で、どれだけ嫌われようが、論争になろうが、自説を曲げずに説き続ける態度やその理論には、多くの作家や俳人も注目すべきところであった。

 そんな火の玉の如き、大須賀乙字の意外な素顔を示した一篇である。

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