斧を腐らせてしまった王質

学問のすずめ

斧を腐らせてしまった王質

王質(おう-しつ) 
晋時代の仙人

・能力・
仙人の囲碁を観戦した所、自分の斧を腐らせてしまった。
そして自らも仙人になった。爛柯爛柯(らんか)の語を作った。

チュン太先生
チュン太先生

時にシャーリィ君。君は浦島太郎を知っているかね?

シャーリィ
シャーリィ

先生……それはいくらなんでも馬鹿にしてません? いくら若い私だって、幼い頃から言の葉に囲まれて居れば一応の常識くらいはつきますよ!

チュン太先生
チュン太先生

内容は言えるよね?

シャーリィ
シャーリィ

当然! 

シャーリィは「浦島太郎」を話し始めます。

昔々、ある所に浦島太郎という青年がいました。ある時、浜辺で子供たちにいじめられていた亀を助けると亀はお礼に竜宮城へ連れて行ってくれました。竜宮城では美しい乙姫様が待っていて、浦島をもてなしてくれた。楽しい日々を送っていた浦島でしたが、ふと故郷が恋しくなって陸地に戻る事になりました。別れの際、乙姫様から玉手箱をもらい、「絶対に開けてはいけない」と言われました。陸に戻った浦島でしたが、そこは知らない村。話を聞くと竜宮城の数日は現実世界での数百年でした。絶望した浦島は開けてはならない玉手箱をあけると、中から煙が出ておじいちゃんになってしまいました……。

シャーリィ
シャーリィ

――っていう筋ですよね?

チュン太先生
チュン太先生

そうね。よくいえました。百点満点です。

シャーリィ
シャーリィ

えへへ……って何でこんな話をさせたんですか!

チュン太先生
チュン太先生

実は今日出てくる仙人がまさにそういう話の構造をしているから……

シャーリィ
シャーリィ

へえ、そんな話が仙人にもあるんですか? 「少しと思ったら数百年の時が過ぎていた」という感じの話が……

チュン太先生
チュン太先生

そうそう。そんな話があるんだ。王質という仙人が経験したという伝説。「爛柯」というのだが。

シャーリィ
シャーリィ

??

チュン太先生
チュン太先生

ああ、読み方は「らんか」という。難しい字だよね。

シャーリィ
シャーリィ

「らんか」ってもしや某歌姫ですか?

チュン太先生
チュン太先生

それは全く関係ないです……あっちはリーがつくでしょ。

シャーリィ
シャーリィ

リーだけにリクツで返そうっていうのですか?

チュン太先生
チュン太先生

やかましいよ……それは置いといてだ、話のタイトルが「爛柯」という。漢字の意味は、「木の枝が腐る」って事です。「爛」はただれる、「柯」は木の枝を意味するからね。

シャーリィ
シャーリィ

なんかただれるんですか?

チュン太先生
チュン太先生

話の筋を聞くと納得するだろう。

チュン太先生
チュン太先生

晋の衢州に王質という人間がいた。

シャーリィ
シャーリィ

晋ってあの晋ですか、古代中国の?

チュン太先生
チュン太先生

そうそう、3世紀から5世紀まであった国で、あの有名な三国志の最後に出てくる。三国の戦乱の末に、司馬炎という男が天下統一して作ったというね。あくまでも伝説だけど。衢州ってのは今の浙江省辺りではないかと考えられている。

チュン太先生
チュン太先生

王質は山に入り、木を切るを生業としていた。

シャーリィ
シャーリィ

野山にはまじらないんですか?

チュン太先生
チュン太先生

竹取の翁に似ていることもあるが……竹は取らないね。ある時、石室山という山の中で一つの洞窟を見つけ、中をのぞいて見ると、童子――子どもたちが碁盤を囲んでいた。囲碁に近いゲームをやっていたというべきかね。

チュン太先生
チュン太先生

囲碁が好きな王質は、斧をそのへんに置いて観戦をし始めた。何か言われると思ったが何も言われない。すると、ひとりの童子がナツメのタネほどの大きさをしたものを王質に与えた。

シャーリィ
シャーリィ

ナツメですか?

チュン太先生
チュン太先生

当時はナツメという植物は薬としても食材としても身近で喜ばれたものだったんだね。日本の梅干しみたいな感覚で、ナツメは出てきたりする。

チュン太先生
チュン太先生

王質がナツメを口に含むと、飢えや渇きを覚える事はなかったという。空腹も気にせず、ずっと成り行きを見ていると、ひとりの童子が口を開いた。

「おまえはここに来てもう随分になるぞ。とっとと帰った方がいいんじゃないか」

 そう言われた王質はハッと我に返って、帰る事にした。そして近くに置いた斧を拾った――が、なんと持ち手の木の部分も鉄も全部腐り果てていて、原型をとどめてはいなかった。
驚いた王質は一目散に山から下りて、家に戻った。しかし、故郷ではもう何百年という時が過ぎており、見知った親戚や旧友たちの姿はどこにもなかった――

シャーリィ
シャーリィ

へー! ちょっとシチュエーションは違いますが、遊びに夢中になっている内に時を忘れる所なんかは特に似てますね!

シャーリィ
シャーリィ

それで王質はどうなったんですか? おじいちゃんにはならないですよね?

チュン太先生
チュン太先生

ここからが本題だ。時間が進んでしまった事を知った王質は山にこもって仙人になったという。

シャーリィ
シャーリィ

あの囲碁を打っていた童子たちが、仙人だったっていう話ではないんですね……でもどうして仙人になったんですか?

チュン太先生
チュン太先生

実はなぜ仙人になったのか、よくわからないのだよ。

シャーリィ
シャーリィ

えー?!

チュン太先生
チュン太先生

色々議論はされているようだけど、元になった『列仙全伝』では、ただ「再び山に入り道を得た」としか書かれていない。

シャーリィ
シャーリィ

じゃあ実際どんな仙人だったか……。

チュン太先生
チュン太先生

不明なんだね……ただ、全てを失った孤独感と、それに神仙ともいえる不思議な童子たちとの出会い、不思議なナツメの実を食したことが、彼が人間から仙人になるきっかけになった――とも解釈はできなくない。

チュン太先生
チュン太先生

しかし、王質はこの逸話を通して、仙人の中でも相当有名な人物になった。「爛柯」は1000年以上たった後も脈々と受け継がれた。遂には、「時間を忘れて楽しんでしまうゲーム」という意味も含めてか、「爛柯」の語が「囲碁」の別称としても使用されるようになった。

シャーリィ
シャーリィ

そんな不思議な逸話から、違う世界に繋がりましたか……。

チュン太先生
チュン太先生

ある意味では、もっとも「桃源郷」と「偶然であれ何であれ、仙人と知り合った者は仙人に近くなる」という意味を体現した仙人の一人なのかもしれないね。








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