徳田秋声のダンス珍談

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徳田秋声のダンス珍談

 徳田秋声は、枯淡的な風貌とは裏腹にレコードとダンスが大好きーーというハイカラ趣味の持ち主であった。
 ある日、売出しの吉屋信子の家に突然訪れ「この間習ったダンスのステップを見せてやろう」。
「スロースロークイッククイック」と、袴姿で平然と踊り通したが、ダンスの内容と服装がちぐはぐの極み。
 吉屋信子は「能のようですね」と喉まで出かけたが飲み込んだという。

『現代日本文学全集100』

 少女小説で売った吉屋信子と、自然主義文学の大御所・徳田秋声は吉屋信子が文壇デビューを遂げて以来、不思議な縁で結ばれており、全く畑違いにもかかわらず、晩年まで交友があった。

 吉屋信子曰く、「秋声先生には、少女時代に懸賞小説で取り上げてもらって、最高得点をつけてもらったお陰で文壇デビューが出来た」という大恩があったそうな。

 そうした関係からか、吉屋信子は徳田を私淑していたし、徳田も骨のある吉屋を相応に買っていた。岩橋邦枝などは「吉屋は徳田秋声の弟子」という形で取り上げている。本格的な師弟関係は流石になかっただろうが、それでも仲が良かったのは事実である。

 また、吉屋は徳田秋声が起こした波乱、山田順子との恋路を時には傍観し、時には批判する立場として、秋声の動向を見守った人物でもあった。吉屋当人は山田をよく思っておらず、警告や秋声を皮肉るような書簡を出していた。

 上の逸話は正にその恋のただなかにある頃の一篇であろう。秋声は連日のスキャンダルに加え、自然主義の衰退やスランプで色々と悩んでおり、ダンスに没頭していた時期であった。

 性愛で悩み続けた男が、身もへったくれもなく踊りに興じる姿はそれはそれでさぞ面白かったのかもしれない。

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