不憫な中村富十郎兄弟(都新聞芸能逸話集)

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不憫な中村富十郎兄弟

★ふびんな兄弟
鶴之助と吾妻春枝の間には二人の男の子があり、総領を鶴之助が、次男を春枝が引取つて離別したが、この子供、二人共に慶応の幼稚舎に通学してゐるので、そこは兄弟、毎日学校で顔を合せるたんびに兄さんの方が、僕ンちへおいでよと帰りに弟を自分の家へつれて行つてしまう、春枝も考へて、今度弟を転校させてしまつたが、何も知らない子供が一番不憫

1940年4月15日号

 戦前戦後関西歌舞伎の花形として活躍した四代目中村富十郎と、女流舞踊の名人と謳われた吾妻徳穂は、若い頃楽屋の出入りで仲良くなり、周りの馴染を皆振り切って駆け落ち結婚をしたという情熱的な恋の持主であった。

 二人の間に、渡邊一と元靖という子が生まれたが、下の弟が生まれるや富十郎は別の女に熱を上げ、吾妻徳穂も藤間万三哉という内弟子と不倫をする始末であった。

 これでは当然家庭がうまく回るはずもなく、離婚。一は富十郎が、元靖は徳穂が預かった。一は、坂東鶴之助から市村竹之丞を経て、「五代目中村富十郎」を襲名し、平成歌舞伎の名人として名誉と勲章をほしいままにした。

 一方弟の元靖は表立った活躍をせず、母の後見役のような形となった。後年、母の弟子である吾妻花舟をめとり、子供を産んだ。この子が今の吾妻流宗家の吾妻徳彌である。吾妻徳彌は後年、中村鴈治郎と結婚し、中村壱太郎を生んだ。

 今注目の女形の壱太郎は、元靖の孫にあたるわけである。

 そんな兄弟であったが、幼い頃は不遇であったという。上の記事は離婚してまだ間もない二人の仲を生々しく描いた逸話である。

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