餌が足りない宮本百合子と壷井栄

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餌が足りない宮本百合子と壷井栄

『二十四の瞳』の壺井栄と、天才少女と謳われた宮本百合子は盟友同士で、長らく社会運動に携わった。
 当時は非合法の社会運動や共産主義思想、百合子は夫の宮本顕治の関係から何度も投獄や裁判の苦難に会った。当人が捕まらなくても夫の面会やら公判で出入りせねばならなかった。
 非国民と白い目を向けられる中、宮本百合子に何かと世話を焼いたのが壺井栄であった。
 百合子も百合子で壺井栄の作る五目寿司や風呂を愛し、度々甘えていた。
 終戦のある日、モンペ姿の百合子が壺井栄の家を訪れた。曰く、「福島へ旅立ちます」。人のいい壺井栄は、百合子を家に上げ、ありあわせで作った五目寿司を食べて、風呂を勧めた。
「たまには二人で入ろう」
 と裸になった所、宮本百合子の背中は随分と小さくみすぼらしく見えた。
「ずいぶん、小さくなったわねえ」
 背中を洗いながら、そう言うと、百合子は
「そうさ、長い間餌が足りないんだもの」
 と笑った。そういう壺井栄も痩せてしまっていた為に、二人は顔を合わせて笑っていたという。

壺井栄『百合子さんの背中』

 宮本百合子と壷井栄の二人は、左派文学の中でも異色の存在である。

 片や天才少女と謳われながらも思想運動に走って苦難の道を行った百合子、片や病苦に貧苦の末に作家として認められた栄。

 全く境遇の違う二人であったが、とても仲が良く、両者共に助け合いながら暮らした。

 そんな二人の友情と運動弾圧の厳しさを知らしめる逸話である。

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