落語・帽子

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帽子

職人の熊さん、出入りをしているお店で婚礼があると知り、よしみから披露式に出ることになった。
 しかし、店のおかみさんが「洋服ならフロックコートかモーニング、和服なら式服じゃないと困る」と注文してきて、熊さん大弱り。
「式服ってのはね、紋付き、袴、山高帽の一つでもちゃんとしてきておくれないと、どうもいけないね」
「そいつは困りましたな、先祖代々そんなものはないもので……金もありませんし、一つ大目に見て頂いては」
「そりゃいけない。何しろ来てくださる大勢様がそれでくるんだから」
 とケンモホロロの返答。ガッカリした熊さん、一つ知り合いのところで服を借りようと考える。
 思いついたのが裕福で人の出入りも多い、近所のお医者さん。病院に行くと「どこが悪いのか」と患者扱いをされっぱなしで話にならない。
 続いて大家の家に行くが「賃料はどうした」と催促の嵐を浴びせられてほうほうの体で逃げ出す。
 とどのつまり、懇意にしてる近所のご隠居の所へ転がり込んで、訳を話すとご隠居は呆れながらも服を貸してくれた。
 熊さんは支度もそこそこにズルズルの服に山高帽を被ってお店に行く。出てきたおかみさんは、その妙ちくりんな格好にあきれて、
「その学校はどうしたものかえ」
 という。熊さん大真面目に、
「笑い事じゃありません。たとえおかしい姿なりでも、先々代からご贔屓頂いてるこのお店、この支度ができなきゃ東京を引き払って南洋へ行こうと思ったんです。これでも4軒目にやっと間に合ったんです」
 おかみさん呆れて
「フフフ、しかしお前さんもそんなことで夜逃げするとは随分頭が小さいね」

「いいえ、その代わり頭が大きうございます」

『読売新聞』(1930年8月31日号)

 柳家金語楼がやった新作。婚礼のために服を探す職人の熊さんの悲哀を描いている。古典的なデッサンを学びながら、「フロックコートや山高帽子着用の結婚式」という近代的なモチーフを匠に練り込むあたり、流石金語楼というべきか。

 ただ最後のオチが弱く、あまりいいネタとも言い切れない。小噺程度には面白いかもしれないが――

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