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歳暮めぐり
ナゼクラ氏のところに、ケチで有名なケチダ氏からお歳暮が届く。
このナゼクラ氏もなかなかさるもので、来たお歳暮を他人の家に回して、お歳暮代を浮かせるというやり手であった。しかし、お歳暮を回すという事は中身がいいものならば相手も大喜びであるが、万が一変な物でも贈ろうものなら、横流しがバレてしまう。
ナゼクラ氏は誰に送ろうと思案するが、どうも箱のサイズの割には手応えがなく、やたらに軽いのに気が付いた。これを見た女房が、
「ケチダさんの事だから変なものが入っているのかしら。なんか気味が悪いわ」
とひどく嫌がる。ナゼクラ氏も妻に同調し、普段自宅の部屋貸している若者に「お歳暮」といって押し付ける算段に出た。
部屋貸しを尋ね、荷物を押し付けると案の定訝しんできた。ナゼクラ氏なぜがこんな歳暮を贈るような事はなかったので訝しむのはもっともであった。
「中身は何です?」
と尋ねられたナゼクラ氏、まさか横流しというわけにもいかず、
「高価なものだが考えようでは安く、形は四角で丸く細長い、味は甘くて辛くて苦いもので穴があったら入りたい……」
などという始末。兎に角相手に押し付けて、中を開いてもらうと、そこにはパチンコで取ったであろう煙草の「ピース・光・バット」が転がっていた。
『ラジオ新聞』(1954年12月26日号)
2021年現在も矍鑠と舞台を勤める最長老・三遊亭金翁が三遊亭小金馬時代に演じたもの。小金馬時代は、若手のホープとして売れに売れていた。
今では古典の大家のイメージが強い金翁であるが、若い頃は師匠・三代目にならってしきりに新作落語を演じていた。兄弟子の三遊亭歌笑の影響もあったのだろう。
新作落語の発展と啓蒙にも尽力したのは意外な功績である。「落語漫才作家長屋」の創設に一枚噛んだり、新作落語の会を多数催したりと、意外に前衛的な人物であった。
この一作は新作初期のものの一つ。凄まじくすぐれているとは思わないが、それでも歳暮を回す庶民の哀愁と、その中身を探られないようにあれこれと言い訳する姿は、今なおプレゼントなどに通じるものがある。
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