落語・心臓

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心臓

 あるサラリーマン、仕事もあり、可愛い妻もあり、幸せな生活を送っていたが、心臓があまり強くなかった。
 これには妻も心配して、「心臓は大丈夫なの」と毎日五回も六回も会社に電話をかけてくる。これには同僚たちからも呆れられ、「心臓」などというアダ名をつけられる始末であった。
 ある日、家に帰ると妻がごちそうと酒で自分をふんだんにねぎらってくれた。
 酒もよく、料理も普段より上等で何を食べてもうまい。上機嫌で一杯やっていると、妻が、
「実は失敗をしてしまって許してください」
 と詫び始める。サラリーマンは「そのためのごちそうだったのか」と合点しながらも、
「失敗は誰にでもある事だ」
 と、妻の失敗を聞き始める。
 妻は、折角買ってきた魚を猫に取られてしまった、という。サラリーマンは「なんだそんなことか」と笑い、「魚ならまた買い直せばいい」と慰めるが、妻は「まだ続きがある」。
 魚を盗んだ猫を追っかけるべく外に出たら、空き巣が入って愛用していたオーバーが盗まれてしまった。
 サラリーマンは「今度のボーナスで買ってあげるから」というが、まだ続きがあるという。
 オーバー盗難の被害届を出しに行こうと外に出たら、今度は靴を盗まれた。
 男はまた慰めるが、まだまだ続きがあった。
 曰く、その靴の盗難を警察に知らせようとしたら、銀行に納める予定だった二万三千円のお金を落とし、その金を探している内に色々なものをなくしてしまった。
「その後で……」
 まだまだ出てくる失敗談にサラリーマンは目を回し、

「もうやめてくれ。これ以上聞くとたった一つの心臓が止まってしまう」

『NHKラジオ新聞』(1954年11月14日号)

 二代目三遊亭円歌が演じた新作落語。自作自演だったらしい。この時、円歌は60過ぎ。当時の平均寿命を考えると凄まじいバイタリティーである。

 病気をテーマにしているだけあってか、扱いづらいものではある。ただ、単純な噺のになかなかのエスプリと皮肉がこもっていて、これはこれで面白い。

 心臓病ではなく、どこまでも臆病な男と、徹底的に神経質で兎に角男が心配な妻という形で解釈して演じたら面白いのではないだろうか。失敗談をあれこれこしらえて、コンボにつなげる事が出来れば、結構な笑いにつながるような気がするのである。

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