奈良丸の妹・吉田元女

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奈良丸の妹・吉田元女

 人 物

 ・本 名 廣橋 もと
 ・生没年 1893年~1962年
 ・出身地 奈良県 吉野郡

 来 歴

 吉田元女は、戦前活躍した女流浪曲師。浪曲黎明期より活躍し、春野百合子や富士月子といった女流浪曲が出てくる以前の大御所として活躍した。雲右衛門と人気を競った二代目吉田奈良丸は実の兄である。

 出身は兄同様に奈良県吉野。父は花川力丸という祭文語りであった。『浪花節名鑑』に「嬢は明治廿六年大和國吉野郡下市に生る。」とあり、そこから生年を逆算した。

 物心ついた時には、10歳以上離れた兄の奈良丸が既に新鋭浪曲師として売り出しており、自身も少女浪曲師としてこの道に飛び込んだ。兄の二代目奈良丸を師事し(ただ一部系図では初代門下となっている)、「吉田小奈良」を襲名。

 兄譲りの優美な節まわしに、女性らしい艶と味わいを兼ね備えた芸と兄の引き立てもあって。吉田一門随一の大看板となった。

 1912年10月、日本蓄音機より『大石妻子別れ』を吹きこみ。爾来、20枚ほど吹き込んでいる。その一部は日文研で聞く事が出来る。

 1913年には、岡本増進堂より『源平盛衰記』、三芳屋書店より『吉田小奈良講演集』を出版している。

 1913年12月23日より5日間、京都南座で「奈良丸実妹・吉田小奈良一行」と称して一門会を開催。「大高源吾」「神崎東下り」「間重次郎」「大石妻子別れ」「不破の赤心」「赤垣源蔵」といった兄譲りの作品を読んでいる。(『近代歌舞伎年表京都編』)

 1914年1月、日本蓄音機より『佐倉宗五郎』を吹きこみ。5月には『中将姫・孝子正宗』を吹きこんでいる。

 1917年、榎本書店より兄と共著で『二ツ巴御国の花 』『雪の曙義士の誉』を出している。

 1917年9月、朝鮮へ巡業に出発。吉田奈良栄、文子、奈美丸など弟子を引き連れていった模様。(朝鮮新聞より)

 以来、吉田奈良丸と二枚看板で全国を巡業し、女流浪曲の第一人者としての地位を確立した。

 1921年4月、オリエントレコードより「大石山科歸り」を吹きこみ。5月にも「静御前」を吹きこみ。

 1929年3月、兄・奈良丸は「一若に奈良丸を譲渡する」と表明。それと同時に小奈良も、弟子の奈良栄に「三代目小奈良」を譲渡することを表明した。ここに4人襲名が行われる事となる。

 3月20日、四人で春日大社を参り、襲名披露の報告と祈念を行った。その際、春日大社から兄は「大和之丞」、小奈良は「元女」と芸名・装束を授かっている。

 3月25日、JOBKより「大和之丞・奈良丸・元女・小奈良襲名披露」の放送を行った。元女は「吉野静雪中の別れ」を口演。小奈良は「無筆の出世」、奈良丸は「矢頭右衛門七」、大和之丞は「黒髪物語」を口演。

 3月26日より6日間、大阪浪花座で襲名披露を実施。

 同年4月19日~25日、京都座で「大和之丞・奈良丸・元女・小奈良襲名披露公演」に列席。賛助出演に春野百合子が出た。19日より、「斎藤内蔵之助」「天野屋利兵衛」「須磨の浦風」「袈裟御前」「姫村正」といった十八番を口演している。

 同年5月21日より25日まで、兄、三代目奈良丸、奈良栄と共に明治座に出演。東京に於ける改名披露を行った。賛助出演として、京山為右衛門、東家楽風、吉田奈良右衛門、奈良清、春野百合子が出る豪華版であった。

 その後、数か月にわたり東京の各劇場で襲名披露を行っている。

 以降は弟子の小奈良の後見に回り、自身は一線を退く形となった。兄・奈良丸経営の寄席にも関与して割かし気楽に過ごしたという。

 1937年、弟子の小奈良が満洲巡業に出るのに際し、自身も特別出演として興行に参加。久方ぶりに表へ顔を出した。『朝鮮新聞』(1937年3月2日号)。に詳しい情報が出ている。

 吉田小奈良・元女近日来演 声調完璧の最高潮絢爛を誇る女流浪曲の横綱吉田小奈良及斯界の大御所随一の名人吉田元女(初代小奈良)の名コンビが愈々三月二日より三日間京城劇場に来演する事に成った。浪曲ファンは彼等の名声や真価は既報の通りで元女の入神の至芸は斯界を風靡し真の名人と称賛されるは彼女において他に之を求めることは絶対不可能である愛弟子小奈良に二代目を襲名させ第一線を退いたが、小奈良渡満興行に錦上更に花を添へる意味にて特別出演する事になった。

 その後は本格的に一線を退いたらしく、番付などにも「元老」と記されるばかりである。

 梅中軒鶯童の「浪曲旅芸人」には「昭和37年没」とある。兄奈良丸より先に亡くなった模様か。

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