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ジャズ長屋
ある所にジャズ長屋とも、チンドン長屋とアダ名された長屋があった。朝から晩までジャズや音楽が飛び交い、さながらチンドン屋のようである。
ここに暮らす若夫婦の奥さん、そんな音楽づくしの生活に音を上げて、「貴方、辛抱できないわ」などと弱音を吐く。
旦那は気楽なもんで「面白いじゃないか」と笑ってばかり。
そうこうしているうちに隣の家から『ザッツOK』の替え歌に合わせて、家賃の支払いを巡って喧嘩の声が聞こえてくる。
「だって払わずにゃいられない あまりに溜めたるこの家賃 あると嘘ついてのばしたが お金の工面はどうしたの いいのかい できたかい 払ってね OK、OK ほっておけー!」
そう思うと豆腐屋が「佐渡おけさ」の文句で豆腐を売りに行き、向かいの住人が草津節に合わせて、
「ほれた豆腐屋 お邪魔でもあろうか ドッコイショ 豆腐一丁にこりゃ油揚げチョウダイチョーダイ……」
などと歌っている。
かと思うと、お隣の新家庭・松田さん夫妻は、ご飯を食べ始めたかと思うと、旦那は朗々たる口調で、
「今しも評判のジャズ長屋の二階に食事をしつつあるうら若き夫婦がありました……」
と活動弁士の真似をはじめる始末。
お向かいの木村さんの家では救世軍の歌と法華経をチャンポンにして声高々にあげている。
そうこうしていると、八百屋がやって来て、格子を叩きながら、
「ああ~~あああ!! ちょいと来ました八百屋でござる! 今日の誤用はございませんかいな……」
と、八木節の調子で唸り出す。その大声と激しい叩き具合に夫婦は驚いて、
「八百屋さん、いい加減にして遅れ、格子を叩いちゃ壊れちゃうよ。また妙な節でヤケに叩きなさんな」
それに八百屋は平然とすまして、「やけになって格子を叩くのは当然です。今やったのはヤケ節ですから」
都家歌六『落語レコード80年史』参照
柳家金語楼の弟、昔々亭桃太郎が演じた新作落語。
金語楼の弟だけあって、そこそこの才能が感じられる。一種のスケッチ落語であろう。
内容やネタのうまさというよりは当時の流行歌や民謡に合わせて、長屋のハチャメチャさを描く所に価値があったのだろう。『掛取万歳』的な味を感じる。
もっとも当時の流行を描く所に価値があるわけだから、いまこの音源や速記を見直すと古臭く感じる。これも宿命であろう。
ただ、オチを八木節に引っ掛けて「ヤケ節」とはなかなか洒落ている、といった所か。
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