落語・エレベーターガール

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エレベーターガール

 頃合いの縁談を「無口な女は嫌いや」といって断った男。
 友達から遊びに誘われて、新しくできたデパートへ行く。
 自慢のエレベーターに乗った二人。エレベーターガールの「上に参りますぅ」「〇階でございますぅ」という弁説にすっかりやられた男、エレベーターガールに夢中になってしまう。
 惚れた欲目の虚しさとやら、男はデパートの売り場を見ずにエレベーターを乗り降りばかりする始末。
「8階、7階、6階……1階、地下室でございまぁす、毎度ありがとうございます」
「あれもう降りた」
「早いなあ」
「さあ出んかい」
「もう一度」
「また戻るんかい」
「じゃ、乗れ、どのみち上に昇るんだ、乗れ」
「おい、もう来たかな、もう一度」
「ええい、勝手にしやがれ!」
 男のエレベーター贔屓に閉口した友達は一足先に帰ってしまい、男は閉店間際までエレベーターに乗っていた。
 数日後、男が体調不良になったーーと聞いた友人、見舞いがてら男の家を訪ねる。
「おい、どうしたんだい?」
「このとおりだ……」
「寝てるのか……どこが悪いんだ」
「熱が出てね」
「どのくらい?」
「体温計が皆昇っちゃった」
「そりゃ大変じゃねえか」
「でもしばらくしたら下がった。たった一度だけど。また上がった。今度は四十二度だ。お、また下がった。今度は三度しかない」
「へえ」
「また上がった」
「上がり下がりが大変ひどいね」

「考えてみ、惚れた女がエレベーターガールだ」

『読売新聞』(1935年3月31日号)

 落語芸術協会の大御所、桂小文治がやった。エレベーターとエレベーターガールという概念が珍しかった時代にはよく受けたであろう。

 すべてが自動化している今日では、エレベーターガールを見る方が珍しくなっている。もはや絶滅危惧種である。

 この噺もまた、エレベーターの進化とエレベーターガールの衰退とともに忘れられていく運命にあるのではなかろうか。

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