落語・家庭カフェー

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家庭カフェー

 大正から戦前までの『カフェー』というと、キレイな女中や男たちと仲良くお茶や酒が飲める、いわばホストホステスのような側面が強かった。
 今も『純喫茶』という言葉が残っているのが、元々はこうした男女と仲良く飲むカフェーとの区切りをつけるために名付けられたものという。
 カフェーでしこたま酒を飲んで泥酔した男、帰宅途中に円タクの運ちゃんにしつこく『車に乗りませんか』と誘われるので、『よし乗ってやろう』と車に乗り込み、ひょいと窓を除くとそこは家の前。
『旦那どちらへ』
『帰る家の前でタクシーに乗るようなバカはいねえ』
 と、ひょいと降りてしまった。
 家に帰ると女房がおかんむりで待ち構えている。
 しかし、泥酔している男はそんな女房の苛立ちや愚痴を気にすることなく、そのまま家の中に入り、
『飲み足りねえから、ウイスキーをもってこい、ジンをもってこい』
 などという始末。
『そんなものありゃしませんよ』
『ならなんでもいいからもってこい』
『先程あたしがいただきました』
 などと、何を聞いても『いただきました』と言われる始末。
 そんな女房を見た旦那、一杯機嫌から気が大きくなり、
『お前は態度が良くない。これから家庭カフェーを開きたいから、お前は酒を買ってこい』
 と、財布を投げつけてカフェーと同じような酒を買ってこいと命じる。
 呆れて部屋に出ていった妻を見送った男、急にしんみりとなり、
『当人の前では絶対に言えないが、女房はわがままに惚れたわけではないから、虐待はできねえなあ。そもそも僕の方から頼んで結婚したものだ。僕の生命はあなたです、結婚してください……なんて泣いて頼んだんだから……アハハ……』
 ひょいと顔をあげると妻が顔を赤らめてこちらを見ている。

『うへー!そんなところで聞いてるやつがあるか!馬鹿!』

『読売新聞』(1935年5月12日号)

 芸術協会の会長として辣腕をふるった春風亭柳橋の改作。元ネタは古典落語の傑作『替り目』であろう。

 替り目ではキーパーソンになるうどん屋が出てこないのが、改作らしいところであるが。

 春風亭柳橋はこういう改作を得意とし、一世の人気をさらった。この頃の柳橋は芸も人柄も円熟し、一つの絶頂期にあった。今でこそ下らないシロモノでさえ、さぞ面白く聞かせたことであろう。

 内容としては面白くない、流行を気取った改作程度の評価に留まるだろうが、しかし、当時の世相を巧みに織り込んだ点は評価できる。

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