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羊
羊年のある年の話。「今年はお前の歳だから心得を申しつける、すぐにこい」と大神宮に呼び出された一匹の羊が東の国より伊勢へやってくる。
途中箱根山で休んでいるとすっかり日が暮れてしまい、震え上がる。
するとそこに昨年の年である馬がやってくる。馬は「羊、お前はこれから伊勢に行くのか」と尋ねる。馬は伊勢のお役の帰りだという。
「昨年は丙午で火事を出すなとうるさくいわれてひやひやしたがなんとかなったのでよかった」と二人話しながら森を行くと、大きなうわばみが腹痛を起こして七転八倒をしている。
うわばみは二匹の姿を確認するや「助けてくれ」と嘆くが、馬と羊は「お前はふだんから鳥獣を丸呑みしているからその罰が当たった、しばらくそうして反省しろ」と、悪態をついて通り過ぎようとする。
うわばみは泣きながら、「羊、お前は十二支の中でも一番義に篤いという」とヨイショをはじめ、「もう丸呑みしないから助けてくれ」と頼む。
しぶしぶ羊がうわばみのそばによると、うわばみの体は罠にはまっていた。なんとか引き抜くと、うわばみは「そういえば昨日鶏が山の中にいる。コイツを丸呑みしようとしたら引っかかった」という。
羊は「こんな山の中に鶏がいるか。大方人間の罠だ。このままだと見世物小屋に売られるところだった。気をつけろ」とあきれると、うわばみは羊を見ながら「そういえばお前はうまいと聞くが本当か?」と尋ねる。
羊は「俺自身食った事ないから判らねえが人様が言うには本当らしい」と答えると、うわばみは唾を垂らして「ああ、お前をひと呑みして見たい」という。
これには羊も怒り、「さっき丸呑みしないといっておきながら、そのざまはなんだ」とうわばみを責める。しかしうわばみもうわばみで「丸呑みしたくなるのは蛇の性分だ」と開き直る。馬もうわばみの非道を批判するが、うわばみは激昂して「そんなにいうなら二匹まとめて飲んじまう」と暴れはじめる。
そこに飛んで来たのが同じ十二支の猿。三匹の間に割って入ると、それぞれの言い分を聞く。
猿は「なるほど羊のいう事が正しいが、蛇が丸呑みするというのは、俺らが木に上り、馬が走るのと同じようなものだ」といい、「助け方にも色々善悪があるという。羊はうわばみを助けたというが、その助け方をもう一度見せてくれ」。
するとうわばみは「さっきこうして罠にかかっていた」と再び自分から罠にかかってしまった。それを見た猿は、羊と馬に向って、「おい、今のうちに早く逃げろ逃げろ……!」
『落語五人全集』
明治の爆笑王と呼ばれた三遊亭円遊が作ったという新作。十二支の動物を散りばめながら、寓話仕立てにしている点は今日でも通じるような気がする。
噺は小噺に近いが、明朗で、円遊の愛嬌と独特の芝居っけでさぞ面白く魅せたであろう――と推測される。普通に今演じてもそこそこ面白く演じられるのではないだろうか。
オチは「考えオチ」に近い。古典の名作「風呂敷」の如く、「目の前で逃がすためにわざと同じ事をやる」という手法は、なかなか手が込んでいる。
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