[random_button label=”他の「ハナシ」を探す” size=”l” color=”indigo”]
放送八百屋
ある町に「ラジオ八百屋」という評判の店があった。
毎朝6時半になると表の戸を開け、ラジオ体操のピアノに合わせながら品出しを始める。
客が来るとこれまたピアノに合わせて、
「いらっしゃい、なんです、きゅうり、只今一盛十銭」
などと歌っている始末。
9時から料理献立が始まると、娘が出てきて、ラジオの放送に合わせて実演販売。
0時5分から演芸放送がはじまると浪花節に合わせて野菜を売り立てる。
野球放送が始まるとアナウンサーの実況風に野菜を売り、夕方小唄やレビューが始まるとレビュー調に野菜を売る。
ドンちゃんと賑やかな商売を続けるが、夜の10時近くなると表の扉を締めはじめる。
慌ててやってきた客が「もうしまいかい?」というと、八百屋は、
「ガーガー」
「八百屋さん」
「ガーガー」
「雑音が入ってるのかい。商売はしねえのかい」
不審に思った客は腕時計を見る。「ははあ、10時か。放送終わりだ。」
『読売新聞』(1934年10月12日号)
桂小文治がやった新作。小文治はやたら放送やラジオという概念が好きなのがおかしい。
小咄の連続みたいなもので、ラジオの放送形態やアナウンサーの口調を模した所に面白みがあったようである。演芸放送では好きな芸が出来たそうだし、最後のオチさえ持っていけば自由な所で切れたともいう。
しかし、夜十時で放送終了とかラジオそのものがマイナーになった今では、通じないネタであろう。
所詮はラジオ全盛期の風刺落語という形に収まる、か。
[random_button label=”他の「ハナシ」を探す” size=”l” color=”lime”]
コメント