落語・貸家さがし

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貸家さがし

 ある夫婦、貸家を探しているがなかなかいい物件が決まらない。
「ねえ貴方、いつまで探したってしようがないから、どっか決めましょうよ。ここなんかどう?」
「フム、三畳六畳四畳半ならいいね。聞いてみよう」
 仲介人を呼んで紹介してもらう事になる。
「はい、おいでなさい。ああ隣の家の貸家ですか。あれは木口も選んだし、大工も選んだのでガッチリしておりますよ」
「お家賃はいくらくらいで?」
「27円でお貸ししましょう」
「27円とね、貸していただけるかしら」
「あなた方が御本人で?」
「左様で」
「ご商売は?」
「丸ノ内の保険会社に行っております」
「お年は」
「28歳」
「学校は」
「慶應の理財科を出まして……」
 とここまではよかったが、
「ご兄弟は」
「ボーナスは、月収は」
「夫婦喧嘩をなさいますか」
 などと、妻にも訊ねる始末。余りにもしつこいので、カッカし始めたが、仲介人は「なるほどわかりました」と納得した様子。
「ではお貸しいただけますか」
「それは無理です」
「え、どこか悪い所がありましたか?」
「いえ悪い所はないんですが、この家は区間整理で取り払い対象になっております」
 余りにも人を食った回答に二人は唖然とし、怒って帰ってしまう。
 妻は怒りながら、「最初に決めた家はどう?」
「広すぎる、下宿屋をやるんじゃないんだから。掃除が大変だろう。」
「なら、私がソウジ大臣になればいいじゃない」
「のんきな事を言っているね」
「次のは?」
「家賃が高い」
「ここは?」
「四畳半しかないって物置じゃないんだから」
「あの屋根にも住みましょうか」
「カラスじゃあるまいし……」
 などと結局いい家が見つからない。そうこうしていると、「八畳・二畳・庭広し」という物件が目に留まった。
「あらいいじゃない」
「どういう家だ……ってなんだこりゃ、畳の配置がみんな縦で、庭がやたらに長くて後ろに山がある……こりゃ弓道場じゃないか」
「貴方、ここにもあるわ」
「お、これはいいね。間口も立派で間取りもいい。なんか書いてるかい」
「あるわよ」
「なになに……1,800円より相談……」

「なんだいこりゃ、売り家じゃないか。」

『読売新聞』(1934年2月28日号)

 三遊亭金馬がやった新作。人間のわがままさや部屋選びの難しさを見事に描き切った新作である。

 金馬の噺は、なんだかんだで批評性にあふれていて、キチンとした新作になっている――こともある。すべてではないが。

 今日、「変な間取り」なんて本やブログがウケているが、この手の間取りをうまく言葉にして、頓珍漢な「貸し家探し」をやってみたら、それはそれで受けるのではないだろうか。

 金馬原作のままではもう時代遅れであるが、手を入れればいくらでも映えるだけの素質や基盤を持った噺だと考えている。なかなか面白い噺の構造を持っている。

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