落語・禁酒

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禁酒

 ある下戸と上戸。下戸は早速酔っ払って『女学校に上がってみてえ』などと放言して、上戸を困らせる。
 上戸は酒を飲みながら『世の中に上戸と下戸があるのは面白い』と身の上話を始める。
 酒の飲み始めは十六歳の時。知人の熊さんが飲んでいるのを見て『美味そうだ』と呟いたら、酒癖の悪い熊さんに無理やり飲まされたという。
『断ろうものなら台所から出刃包丁を持って畳の上へブスリ!』
 しかし、その酒がうまいのを知り、以来、大変な酒飲みになった。
 そんなことを話してると、下戸は、
『その熊のやつは最近禁酒会に入って、盛んに禁酒宣伝のビラをばらまいてる』
 という。それを聞いた上戸、真っ赤になって怒って、
『禁酒会に入るなどフザケた了見だ』
 と、下戸の制止を振り切って熊の家を訪ねた。
 果たして熊さんの家に入ると、蚊帳が釣ってあって中から大変な大いびき。
 血気盛んに飛び込んで、熊を叩き起こすと、熊さんは一杯機嫌のレロレロ。
『あたしゃもう飲めねえ』
 これには上戸も呆れて、
『あれ、こんちくしょう酔っ払ってやがらあ。てめえは、禁酒会に入ってるんだってな』
『あ、そうそう……禁酒は体に毒ですよ。お酒こそは人類の不幸を招く……うーいっく、どっかへ行こうか』
『なぐるぞ、ふざけやがって。てめえそんなベロベロになってやがって、よくずうずうしく禁酒の演説ができるな』

『あたりめえよ。酒をやめろなんてことは、とてもしらふではいえねえ』

『昭和落語名作選集』

 春風亭柳橋がやった。昭和初期から戦時中にかけての「飲酒追放運動」をうまくネタにしている。

 長いネタではないが、禁酒を散々煽っておいて、最後の最後にトンデモナイオチに持っていくのが、西洋小噺のような味わいがある。

 禁酒運動とはいささか古いが、今の健康ブームに結び付けて、仕立て直したらこれはこれで面白いのではないだろうか。

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