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落語・納豆屋
資産家の家に生れながらもお決まりの道楽で身を持ち崩し、親から勘当を受けた吉川君。母親がこっそりくれた五十円をたちまち使い倒し、残りは五十銭という始末になった。
そこでおじさんの家に転がり込み、「金儲けがしたい」と相談する。
おじさんは「元手があれば商売ができる。いくら持ってきた?」というが、「五十銭」という答えを聞いて「馬鹿にしているのか」とあきれる。
それでも「金儲けがしたい」という甥に対し、「そんなわずかな金なら辻占売(くじ引き)か納豆売しかない」という。
甥は「納豆は嫌いだ」というが、「お前が食うんじゃない、それを売りに行くんだぞ」とおじさんに諭され、「食べないでいいならやります。断然やります」とやる気になる。
甥の気ままさに呆れながらも「親に見放されてから少しは人間らしくなった」と成長は認め、裏の芳さんに頼んで納豆を持ってきてもらう。
藁苞の納豆を仕入れた吉川君、おじさんの指導を経て、風呂敷包に納豆をかいこみ、往来へ売りに行く。
道行く人に声をかけて納豆を売りつけたり、変な店に入って怒鳴られたり――と、失敗を繰り返しながら、さる家に入ると資産家時代の友人・山本君が顔を出す。
山本君は旧友の苦労に同情し、「残った分は家に持ってきたまえ。全て買ってやろう」と、持ってきた納豆を全て買って来てくれた上に、山本家に居候している木村君というプータローに「吉川君を見習いたまえ」という始末である。
これに味を占めた吉川君、毎日、毎日山本家に納豆を持って行っては金を貰いに行く。
一方、頭を抱えるのが木村君。朝が納豆、昼が納豆、夜が納豆――出るものすべてが納豆なので、遂に寝込んでしまう。
数日後、いつものように納豆を持ってきた吉川君、山本家が騒がしいので尋ねると、「木村さんの体調が悪い」といわれる。
面会を申し込むと木村君は寝込んでいる。「しっかりしろ」というと、木村君――
「毎日納豆納豆で口の中がネチャネチャするし、寝れば納豆の夢を見る。このままいくと納豆に殺されるだろう。死んだら回向を頼む」
と弱弱しいあいさつ。
「おい、しっかりしろよ。正気がつくように唐辛子水でも飲ませようか」
というと、木村君、「いいや、からしがいい」
「評判落語全集 下巻」
柳家金語楼が若手の頃に作った作品だという。まだこの頃は新作に完全手慣れていなかったそうで、小噺をうまく引き伸ばしたものだった。
この納豆屋にもそのエッセンスが感じられる。「若旦那が身を持ち崩して商売をはじめ、失敗をする」というネタはよくあるものである。
素晴らしく良くできている――とは思わないが、相応にはできて居る話である。その割に余りやり手はない。
金語楼以外で演じたのは、戦後は新作で売れた三遊亭右女助くらいか。
右女助を慕っていた桂平治はこの噺を右女助から直々に習い、文治と名を変えた今も「納豆売」の名前で時折やっている。
『桂平治の噺の穴』という連載の中で――
教わった通りに演ると十五分から二十分、前半があまり面白くないので近頃は納豆を売りに行く処からで、五分から七分であがる。時間を詰める時にはよく演っている。納豆を家に売りに行く処で、柳昇師匠の家へ行き声色を使ったり、自分でも遊んでいる。
演る人もいないし、私自身好きな噺である。
と語っている。
また、珍しい噺マニアの三笑亭夢丸も時折やる。多分文治から教わったのではないか。芸協の寄席ではたまに聞ける――一応生きた噺ではある。
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