落語・大晦日

[random_button label=”他の「ハナシ」を探す” size=”l” color=”indigo”]

大晦日

 味噌こしの底にたまりし大晦日、越すに越されぬ越されぬに越す。
 その昔、大みそかは一年のツケや借金を返す期日であった。当然、借金を払えない家庭では、その支払いを何とかして値切ろうとする。そんな悲喜こもごもを描写したお笑いを一席。
 或るご家庭、毎度おなじみの借金の山。大晦日だというのに返済の目途はついておらず、朝から妻は嘆きっぱなし。
 旦那は「はかりごとは密なるを以て良しとす」などと気取っているが、現実はそう変わらない。妻の嘆きに辟易した旦那、「よし、おじさんのところで借りてこよう」という。
 しかし、妻は「おじさんの所だって相当に不義理しているんだからもう貸してはくれないだろう」と止める。旦那は気にせず表に出て、おじさんの家に向かう。
 普通に入ったのでは入れてくれないのではないか、と案じた旦那は八百屋の声色を使って、戸を開けさせる。
「なんだ、お前か」
 おじさんは、旦那の顔を見るなり、いやな顔をするが、旦那は平然と家の中に上がり込んで用件を切り出す。
「何しに来た」
「実は家内が病気で、もうダメです。一目でいいからおじさんにあって死にたいといっております」
 当然嘘なのだが、旦那の演技に騙されたおじさんは驚いて、
「病気? そりゃ可哀想に。そんな時こそ遠慮せずにあってこい。金がないなら貸してやろう」
 と、掌を返して心配を始めて、財布や何やらを取り出し始める。
「いくら必要なんだ、貸してやろう」
「へえ、三十円あれば」
「よし、承知した」
 おじさんは、三十円を旦那に渡す。これを受け取った旦那は帰ろうとするが、おじさんに、
「待て待て。最後にあって死にたいとは、いったい何の病だ?」
 に、旦那、

「ヘイ眼病です」

『都新聞』(1933年12月31日号)

 柳家金語楼が演じた新作らしきネタ。大晦日の借金の悲喜こもごもや争奪戦を描いたものには、「掛取万歳」「にらみ返し」「言訳座頭」など多数ある。これらのネタは師走に入ると盛んに寄席で演じられるようになる。

 ただ、大みそかがそういう決算日ではなくなった事もあってか、大みそかの悲喜こもごもは年々薄れていっている気がするのである。無論、それは仕方ない事であるが――

 金語楼にしては、堅実で古典風な作品。小噺に近いものといっていいのかもしれない。

 古典的だけあってか、オーソドックスで危なげのない笑いであるが、大みそかの悲哀が共感できない分、ちょっと難しいネタになりつつあるのではないか。

[random_button label=”他の「ハナシ」を探す” size=”l” color=”lime”]

コメント

タイトルとURLをコピーしました