落語・書生

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書生

 ある日曜日の事。仲良しの書生二人が顔を合わせ、「どこか出かけよう」と話をする。二人は学校に通って成績を競い合う良き友達であった。
 真面目な学生は「上野に行こうか、浅草で芸者を呼ぼうか」というが、もう片方は「そんなもんじゃない。釣りに行こうじゃないか」と提案する。
「釣?! とんでもない。君一人で行きたまえ」
 この提案に拒絶をするものの、相手は「自分は海釣りがしたい。自分は船を漕げるし、泳ぎもうまい。君だって泳ぎがうまいそうじゃないか。行こうじゃないか」とうまく言い丸められて、海へ行く事となった。
 品川沖から海へ出て、船に乗った二人。片方は悠然と釣りを始めるが、もう一人は海釣りが初めてと見えて文句ばかり。
 餌のゴカイをみては「こんなムカデのなり損ないを見るのも嫌だ」、草履を釣り上げては「うまく釣りができない」とボヤく。
「もっと釣りたいなら沖へ行こう」
 と片方が船を漕いで沖に出る。ここでは魚がよく採れたが、にわかに雨雲が現れ、生ぬるい風が吹き始めた。
「しまった、ハヤテだ」
 学生二人は震え上がるが、猛烈な悪天候には勝てず船はもみくちゃに揺れる。既に船は崩れかけ、二人はずぶぬれである。
 最後の賭けに出た二人は「兵児帯を舟板に縛って、そのままなんとかしのごう」と、兵児帯をといて、舟板に括り付けた。その瞬間、大波がやって来て二人を浚っていく――
 気が付くと、西洋館が並ぶ浜辺にいた。ここは天国か、と思うと近くにいた人々が「やあ、目を覚ました」という。
 訳を聞くと、自分達は今の今まで気絶をしており、周りの人が介抱していたという。
「これはかたじけない。もう一人男がいたはずですが、どこへ……?」
 と恐る恐る尋ねると「ああ、もう一人も介抱されておる。今しがた起きてくるだろう」。
 そこへもう一人の書生がやって来て、「ひどい目に遭った。悪いことをしてしまった」と詫びる。何とか仲直りした二人は「しかし、ここはどこなのでしょうか?」と人々に尋ねると、
「ここは、神奈川だ」
「神奈川……ははあ、西洋館があるから外国へ流されたのかと思いましたが」
「お前さん方はどこから来なすった」
 二人は品川沖から流されて神奈川沖までたどり着いた事を話す。
「品川沖から神奈川まで流されて命が助かるとは珍しい。して、君たちはいったい何者だ?」
「ええ、学校の生徒で」

「ハハア、生徒だけに書生(蘇生)したんだな」

『落語名人会』

 初代三遊亭圓左の自作自演落語だという。明治時代の書生・学生の大らかな気質を描写した話と言えよう。

 定着させるには難しいだろうが、明治時代のサンプルとして演じるには悪くないと思われる。

 圓左は書生を落語にあげるのが好きで、他にも「道楽書生」というのがある。ただ、これは全く別の噺。「あちたりこちたり」の別名の方が知られているようである。

 本当に古風な姿で語って見せるか、或いは切りつめに切り詰めて小噺にすればいいのかもしれない。

 なぜかこのネタを、円左の倅、二代目三遊亭圓左が受け継いでおり、速記が残っている。親父を意識したのだろうか。

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