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スピード成金
あるところに、ルンペン(ホームレス)同然の北村市兵衛親子がいた。父親は数日ご飯を食べてないのでお腹と背中がくっつきそうな有様、「金がない時に笑っちゃだめだ」と子供に叱る始末である。
そこに人が訪ねてくる。用件を聞くと、
「市兵衛さんのお宅はこちらですか?」
「市兵衛?聞いたことねえ名前だな。大家さんに聞いてみてください」
「お父さん、お父さんの名前が市兵衛じゃないか。表札に書いてある」
「そうかい、なら私が市兵衛だそうです」
「そうですか、私はアメリカから来たものですが」
「アメリカから?歩いてきたんですか?」
「歩いてきたわけではありませんが、あなたのおじさんがアメリカにおいでになります」
「いや、おじさんはアメリカには行きませんよ。あれはあたしのお父さんの弟です」
「それじゃおじさんです。実は南米でコーヒー農園を経営していてなかなかの有力者でして……」
男の話を聞くと「そのおじさんが先日ぽっくり死んでしまった。遺言で甥っ子の北村市兵衛に財産を全部譲ってやれ、と残された。それを今日持ってきたのです」という。
男は「遺産はしめて八百万円ほどあります」
この額を聞いた市兵衛は衝撃のあまり目を回して伸びてしまった。
子供は泣いて隣のおじさんを呼んで、父の介抱をする。目を覚ました父親は隣人の頭を殴って、相手が「痛い!」と怒ると、「痛いか。よかった夢じゃない」。
隣のおじさんにも話をすると、おじさんものびそうになる。
客に話を聞くと「八百万とは申しましたが色々手続きがあり、当座は十万円で我慢してください」と金貨と札を出してくる。これには市兵衛またしても目を回す。
「つきましてはアメリカへ一度おいでになっていただきたい」と頼まれ、市兵衛はこの話に乗る。 さて準備というときに通信者から記者がやってきて、「ルンペンから成金になった感想を」としつこく求められる。
嫌になった市兵衛、「こんな面倒くさいことはない。俺は寝ちまうよ」と、横になろうとすると、子供に止められる。
「坊や、どうしてだい」「寝ちゃだめだよ、お父さん寝ると、このことが夢になるから!」
リーガルレコード『スピード成金』
スピード成金は、初代柳家権太楼が演じた新作落語。1936年4月、リーガルレコードから『スピード成金』として発売されている。
当時の風俗を映した小噺的な噺というべきだろうか。南米でコーヒー農園を起こして成功した――というのは、明治末から昭和初期にかけてあった移民運動の名残であろう。
ルンペンのは名前を「北村市兵衛」と名乗っているが、これはなんと柳家権太楼の名前。一種の宇賀知的な物だろうか。
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