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ズボラの達人・京山恭爲
人 物
京山 恭爲
・本 名 野手 為楠
・生没年 1881年5月17日~1941年7月13日
・出身地 和歌山
来 歴
出身は、和歌山。父は和歌山藩で五百石の禄をもらっていた野手悟助為春。名門の出であるが、明治維新のために没落したともいう。「為楠」という名前だけ見ても、その風格を伺い知れる。
経歴とご尊顔は国会図書館所蔵の『浪花節名鑑』から割り出した。
ただ、この名鑑は如何にも寄せ集めというもので、出身地等は間違っているので注意。元養子の孤舟が、恭為の出身を和歌山と書いているので間違いないだろう。和歌山藩の藩士の倅なので、間違いない。
青年時代に京山の中興の祖と呼ばれる二代目京山恭安斎に入門。桃中軒雲右衛門と鎬を削った京山若丸・京山小円とは兄弟弟子にあたる。
「恭為」の芸名は、本名の「為楠」と「恭安斎」を掛け合わせたものであろう。
京山の出でありながら、修行先は東京。多くの名人上手やうるさい客と同座して、独自の芸を磨いた。中でも、春日亭清吉と人気を競い合った仲。
そのため、人気が先に出たのは東京で、本拠地・関西へ東京から凱旋公演をする、という逆さまな成功を収めた。
若き日の梅中軒鶯童は、凱旋した恭為の姿を『浪曲旅芸人』の中で、「東京へ出て破天荒の人気を博していた」恭為の帰省に当り、会を催したが、余りの人気で他の芸人が出ても引きずりおろされてしまう程であったという。
鶯童はこの時、恭為の芸を見たそうであるが、
恭為師の浪花節はこの時初めて聴いたのであったが、人物描写の妙、巧みな会話運びで、うわさに聞くより以上だと思った。後年は私の一座に永らくく加入して貰って、芸道の極意をよく見聞する事が出来たが、最初にうけた印象は、よくも一本調子のこの声でこれだけの魅力を生むものであると、芸の恐ろしさを感じた。
と、そのすごさを語っている。後年は関西の寄席を中心に活躍。八丁荒しとして売れに売れた。
美声が売れる傾向にあった大阪において、悪声で知られた。
声に艶がなく、節も味気が無くて、甚だ話にならなかったという。正岡容は、『雲右衛門以後』の中で、
新聞小説その他、専らこの人は新作許り採上げたが、節は少しもおもしろくなく、只管、啖呵が喝采を博した。
と評し、岡本文弥も『文弥芸談』の中で、
「これもふしは淡々と、むしろぶっきら棒なくらい。関西ぶしとて三味線はピシャピシャという水調子……」
と、その節の拙さを指摘している。
しかし、一度啖呵や科白になると、その情景描写といい、人物の演じ分けといい、身震いするほどの出来だったそうである。一種の啖呵読みの芸人だったといえよう。芝清之は、晩年見た恭爲の演技を『大衆芸能資料集成』の中で、
人物描写、情景描写の巧かった事は無類で、死人を埋める墓所の寂寞さ、鍬に掘り出される槌の音が恭爲の足音に聴えて、思わず身震いさせられたことがある。
京山派には珍しく、忠臣蔵や古典作品という様なモノよりも「新講談」――「探偵物」「事件物」と呼ばれる作品を得意としており、「日本ジゴマ」「河内十人斬り」「三人書生」「強盗士官」「乃木将軍」などといった独自の読物を開拓。
連続物を売り物とし、寄席で延々と演じた。もっとも、ズボラのために、寄席を抜き、前後の結末が判らなくなるという失態はよくあったそうな。
1913年、三芳屋から「京山若丸京山恭為浪花節十八番」なる本を出している。これは国会デジタルで見ることができる。
1916年、桃中軒如雲と手を組んで中国・奉天を巡業して居る。
関西きっての芸豪で知られたが、レコードや放送は少ない。その背景には、凄まじいズボラが仇を成したという。
ズボラもズボラ、ズボラの達人と差し支えないほどのズボラであった。仕事をサボるのは常習犯、借金は返さない、酒で興行をすっぽかす、などの常習犯で、「ズボラの為」と陰口を叩かれるほどであった。『浪花節名鑑』でさえも、「飲むが道楽、ヅボラが病ひ。」とまで書く始末である。
一時期、養子になっていたのがわかの浦孤舟。孤舟のおかげで多くの芸題や逸話が残されたようである。
1926年11月30日、JOBKの『浪花節の夕』に出演し、『探偵美談・雪中の善』を口演。共演は春野百合子、京山小円、木村友衛。
昭和に改元して以降は、少しまともになったらしく、浪曲親友協会の幹部を務めた。
1933年10月24日、大阪放送局より「太刀山出世美談 芸妓と力士」を口演。
1941年7月13日、死去。61歳。墓は和歌山県慈光円福院にあるという。
余談であるが、この人の末弟子と自称したのが(しかし、実際は孫弟子らしい)、「これは素敵なちょいとイカス~」で売れに売れた暁伸その人である。
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