落語・本塁打

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本塁打

 お馴染の八っつあんが、出入りの店の若旦那に出会う。
「どちらへお出かけですか?」と尋ねると、「神宮グラウンドまで」。
「いやだなあ、若旦那、そんないい年して……」
「おかしいかね」
「神宮のブランコだなんて」
「ブランコじゃない。グラウンドだ。球場だよ。ベースボールを見に行くんだ」
「ははあ、メンチボール」
「メンチボールじゃない。ベースボールだ。野球だよ」
 若旦那、なんとか八つあんに野球の概念を教えて一緒に見に行かないかと誘うと、八つあんは「喜んでついていきます」。
 神宮球場は大入り満員。見たことのない野球を若旦那の講釈付きで見る。そのうち、ホームランが飛び出して場内が沸く。
「あれはなんですか」
「あれはホームランといってだ、遠くに球を打つと生きて帰ってこられる、そして一点取れるのだ」
 と説明を受ける。
 野球の面白さにすっかりはまった八つあん、次の日、近所の子供を集めて見よう見まねで野球を始める。バットがないのですりこ木を持ち出すような始末であった。
 八つあんの打席になり、球が投げられた。八つあんはここぞとばかりにフルスイングをして、見事に飛んでいく。その球は大家さんの息子の頭へ当たった。
 それを見かけたおかみさんは真っ青になって、「お前さん、大家さんの所の坊ちゃんは体が弱い。当たり所が悪ければ死んでしまうじゃないか!」

「馬鹿、ホームランだから死ぬことはない。生きて帰ってくる。」

『読売新聞』(1936年1月24日号)

 林家三平の父、七代目林家正蔵が演じた野球落語の一つ。林家正蔵は野球が大好きで、自ら野球チームに出入りする程の熱の入れようを見せた。

 内容は落語の若旦那と八つあんの掛合から、付け焼刃でオチを見せるというお馴染みのスタイルの物。目新しさを感じない分、安定した面白さがある。

 当時は早慶戦が盛んで、プロ野球の噂もポツポツと出始めた頃である。そうした中での落語であった。一種の時事ネタ落語であったといえようか。

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