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落語・怪談ショートショート
怪談というものは古今東西、たくさんある。しかし、近代になるにつれて科学や技術が進歩し、これまでのような古き良き怪談が受けなくなる。
中には驚く事を間違っているような人がいて、「電車の事故で100人死んだ」「内閣総辞職だ」「埋め立てを行う」といっても、「そうかい」と涼しい顔をしているのに、「風呂銭が一円上がる」というと「そ、それは大変だ」と目を回したりして、兎角現代は忙しい。
そんな忙しい世の中だから、怪談もショートショートでいかなければならない。ある丑三つ時のころ、男が寂しい路地裏を歩いているとコツコツ足音が聞こえてくる。足早にすると、その足音も足早になる。
「た、たすけてくれ！……ってなんだ俺の靴の音か」町外れの踏み切り、人通りもなく怪しい噂もあるようなところ。そこを夜中に通った男の眼の前に、ばっと何が覆いかぶさった。それは白い影。
「ゆゆ、幽霊！？！？……ってこりゃ、風で飛ばされた新聞じゃないか」本所七不思議に「置いてけぼり」というのがある。置いてけ堀で釣りをすると「置いてけ」という声が響き、出会う人が皆のっぺらぼうになって釣り人を苦しめるという伝説である。
話変わって、西瓜泥棒をするには月夜の暁を狙うのがいいと聞く。ある西瓜畑に現れた西瓜泥棒、手ごろな西瓜を盗んで逃げだそうとすると、何かにぶつかった。前をよく見ると、なんと大きなのっぺらぼう。
「お、お前はなんだ！」
のっぺらぼう、西瓜をすっと前に出すと、
「おまけぇ……」またまっ昼間に出る幽霊もいるという。ある時、銀座の柳の下で、不気味な女が立っている。しかし、柳の下でずっと立ちっぱなし。何をするわけでもない。
実はお化けじゃないのだろうと「もしもしどうしました」と声をかけると、柳の女は恨めしそうな声で、
「待ち化けえ……（※待ちぼうけの洒落か）」寿司屋にもお化けが出るという。そのお化けは勘定書きに化けているそうで、どんちゃん騒いだ後に勘定を見ると顔を真っ青にして肝を冷やすという算段で――ある弱虫な男、酒席で震え出したので、「おいどうしたのだ」と尋ねると、
「トイレにマグロの幽霊が出た」
「マグロの幽霊？ そんなバカな。いったいどんなのだ」
「チュウ～トロトロ、チュウトロトロ……」未練が残った人間は人魂になって辺りを飛び交い、夜歩く人を驚かせるという。
ある夜、男の前にパッと人魂が現れた――が、それは赤・青・黄の色をしたとてつもなく派手な人魂。
「なんだい、お前は。もっと不気味な色で出てこい」
「しょうがないよ。俺は交通事故で死んだもので……」おばけに化けて人を怖がらせて喜ぶのが狸だという。しかし、からかさお化けや一つ目小僧は既にマンネリ化していて「古い古い」と笑われる始末。
ある狸、「よし一つ驚かしてやる」とお化けに化けて人前に出たら、これが見事に驚かれた。
「貴方、足があるお化けが出た！」
「そんなバカな。いったい何のお化けだ」
「タコのお化けよ」これはとっておきの怪談である。場所は伏せるが、結婚を反対された若いカップル「もうこの世では生きていけないから心中してあの世で結ばれよう」と約束し、列車飛び込み心中を試みる。
しかし、死ぬ直前でおじけづいた男は身を引いてしまい、女だけが目の前で死んでしまった。ふと起き上がってみると胸のところに引き裂かれた女の腕がグッとまとわりついていた――
女の愛情は怖いものである。それから一年後、生き残った男は女のために線香を手向けに来た。そして、近くの小さな旅館に泊まったが、どういうわけかその晩は男の客は自分一人。しかも、雨の音がよく聞こえる二階の奥座敷に通された。
早々と布団を敷いて寝るが、寝付けない。すると、何者かが二階に上って来る音が聞こえる。
「なんだこんな夜更けに二階へ来るのは……」
すると思い出す一年前の心中。彼女の幽霊が自分に会いに来たのだと合点し、男は震え上がる。
「ここは違う……」
「ここでもない……」
不気味な声が響きながら、ひたひたと近づいてくる。男は真っ青になって震えあがる。
「だ、誰だお前は！」
男が泣きながら声を挙げると、「へえ、あんまでございます」
『100万人の映画館』より
神津友好が執筆し、柳亭痴楽が演じた。
「ショートショート」のタイトル通り、短い小噺を交えながら、それらしい物語を連ねていく。非常に演じやすい作品だったという。
当時は週刊誌ばやりで、ショートショートが盛んであった。それに感化された形で執筆されたようである。
痴楽のメリハリのある口調も相まって、独特の味わいがあったという。
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