美貌・美声の吉田奈良千代

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美貌・美声の吉田奈良千代

　人　物

　吉田よしだ 奈良千代ならちよ
　・本　名　和田常子（旧姓・稲畑）
　・生没年　1904年12月20日～1954年1月19日
　・出身地　大阪？

　来　歴

　吉田奈良千代は戦前戦後活躍した女流浪曲師。吉田小奈良の弟子で、美貌・美声、舞台度胸の三拍子そろった芸で大阪を代表する浪曲師として知られたが、戦後40代そこそこで夭折を遂げた。

　生年月日等は、1935年発行の『東西浪界写真名鑑』より割り出した。

　本　　名　　稲畑常子
　生年月日　　明治三十七年十二月二十日
　師　　匠　　吉田元女
　初入門年月　九才
　藝（十八番）新作物、人生の愛、軍国子守唄、国境警備隊、義士伝
　趣　　味　　観劇、映画
　初　舞　台　九才、東京御国座

　稲畑常子は旧姓だろうか。和田ちよ子という資料もある。よくわからない。また、初舞台も齟齬が生じている。

　さらに厄介なのが、わらわし隊慰問の時に提出した「陸恤庶發第七七七號　船舶便乗願ノ件申請」（昭和十三年十一月十四日）の記載。その中には、

浪曲　中　吉田奈良千代　和田常子　　明治四〇年五月二九日生

　とある。少なくとも和田常子が本名なのは事実だろうが、生年が余りにもガバガバである。

　幼くして吉田小奈良（二代目奈良丸の妹）に弟子入りして、吉田奈良千代。二代目奈良丸門下と紹介される事もある。

　師匠譲りの芸題と美声・美貌の持主として頭角を現し、売れっ子になった。二代目奈良丸にも可愛がられ、一座に同行した事もある。

　師匠譲りの『義士伝』の他、『軍国の母』『国境警備隊』など軍国浪曲も演じた。

　独立後、吉田一門の三味線弾き・吉田奈良英（和田峰太郎）と結婚。和田と名前が変わる。

　1928年12月、ツルレコードから『柳生二階笠』を吹き込み。

　1929年夏、サンフランシスコに乗り込み米国巡業。『日米新聞』（8月15日号）に、

にぎやかに吉田奈良千代　むすめ浪花節一行　明日の船で乗り込み　十七、八両夜初開演　
艦隊で賑はい、学芸展で一足激しき桑港に、折り柄また上手な浪花節一座が乗り込んでくる、女優若手の新進、名花ぞろひといふ吉田奈良千代一行がそれである、一考は既報の如く奈良千代を金看板に、滑稽読みの名人笑樂家賀嬢、吉田奈良英、若いところの吉田日出千代、同亀千代といふ顔ぶれである聞けば一行が渡米となつたのは、この程大受だつた京山華千代が「これなら私以上に大受必定」と保証して推薦し来つたものだとのこと

　1930年正月は、ハワイで迎える事となった。

　1930年4月までハワイを巡業し、大当たりをとった。惜しまれながらも帰国し、今度は凱旋公演を行っている。

　1933年3月、タイヘイより『大石妻子別れ』を吹き込み。7月には『南部坂雪の別れ』を吹き込んでいる。

　1934年、駆け落ち事件を起こし少しだけ問題になった。『ハワイ報知』（1934年9月1日号）に、

◇遠くはなれてゐても常道をはずれると何かな噂が伝はつて来る。最近その筋の玄人からの来信によれば布哇巡業でお馴染の女流浪花節、吉田奈良千代が亭主と子供を残して若き燕と駆け落したと云ふ。　
◇奈良千代は自分の門人で二十二歳の生年と他人では無くなって、本年生れた赤ん坊を始めよ人の子供を置いてけぼりに亭主へほり任せ其の青年と手に手を取つて逃げたと云ふのだから、オバさん早まった事をしたものだ

　とネタにされている。この駆け落ちはうまくいかず、結局峰太郎と元の鞘に収まったらしい。

　この頃、吉本興業と結びつきを得、吉本の劇場にもたびたび出演するようになる。

　1938年11月、吉本主催の第二次「わらわし隊」のメンバーに選出され、満州戦線を慰問した。漫才の三遊亭柳枝・文の家久月、荒川玉枝・成三郎、秋山右楽・左楽、東五九童・松葉蝶子、玉松一郎・ミスワカナ、講談の神田伯龍、奇術のアダチ竜光が主だったところ。

　数か月ほど中国戦線を巡り、帰国後凱旋公演を行っている。

　戦時中は劇場出演の傍ら、慰問で活躍。戦争浪曲も演じ、女流浪曲で高い地位を確立した。

　戦後も引き続き相応のポジションを得、浪曲大会などに出演。一時は「二代目百合子」を許され、その看板を名乗る程であったが、百合子の娘が「二代目百合子」を襲名したためにお流れとなった。

　美声で鳴らしていたが、1953年に相方の峰太郎に死なれ、三味線を失った。

　新しい三味線や弟子を育成し、再起しようとした刹那、北海道巡業中に倒れ、死去。『大阪府年鑑　昭和29年版』に――