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反骨児・英紅天
人 物
英 紅天
・本 名 岡本 静
・生没年 1899年~1932年頃
・出身地 神戸?
来 歴
英紅天は戦前活躍した浪曲師。美貌と美声の浪曲師で謳われたが骨のある反逆児として知られ、浪曲親友組合に喧嘩を売ったり、吉本に喧嘩を売ったり、と同期生の梅中軒鶯童や広沢瓢右衛門を巻き込んで、浪曲戦争を巻き起こした。
生年と本名は『浪花節名鑑』より割り出した。写しを国会デジタルで見ることができる。
英紅天
本名 岡本静
年齢 明治三十二年生
初高座 明治四十四年四月神戸三宮にて
読物十八番 死美人 日露乃木
また、浪曲師としての経歴が、鶯童の『浪曲旅芸人』に記してある。以下はその引用。
紅天は神戸の雑用宿、姉川徳丸の倅、京山春駒の弟子になって春海と名乗っていた。背丈勝れて要望温和、一見役者の女形とも見える好男子だったが、才気に富んだ野心家で、鋭い性格だった。
1911年4月、京山春駒に入門。同期には梅中軒鶯童、広沢瓢右衛門がいた。
師匠の春駒譲りの新物、明治物を得意としたそうである。十八番も「乃木将軍」「小村寿太郎と魚武」「死美人」「因縁裁判」など、耽美な新作を読みこなした。
鶯童が「舞台の人気や地位そのものより才気を買われて一時評議員を勤めている」と評したように、若くして浪曲親友組合の青年部の評議員になるなど、大御所や幹部からも可愛がられた。
1924年時点では既に幹部扱いを受けており、大きく「青年会理事」と書かれている。
一方、その才気は時折よこしまな事にも使われたそうで「才物は才物だが、時には小刀細工で悪辣な事もやる男」と鶯童は評している。
1926年9月12日、大阪放送局に出演し、「修羅八荒」を口演。
1927年6月27〜28日、大阪放送より「乃木大将」「小村寿太郎と魚武」の二席を毎夜公演。
1928年夏、親友派と吉本の間に対立が勃発。吉本の人気者至上主義と、若手を活用してほしい親友派の間に喧嘩が起きた。
中でも人気者だった八洲東天は吉本を強く批判し、吉本はこれに激昂。出演拒絶を行うなど、報復に出た。そこで親友派は、岡本玉治、梅中軒鶯童、広沢瓢右衛門、そして英紅天の四人を「調停委員」に命じ、吉本幹部との調停を行った。
しかし、紅天は真っ向からの反吉本であり、瓢右衛門もそれに続いた。穏健派の鶯童は旅巡業で総会におらず、調停委員を出したはずがますます吉本を激昂させるという結果に終わった。
この調停委員に困った親友派は廣澤虎吉、吉田奈良丸・小奈良兄妹を出して、内密に調停を執り行ったが、これに紅天は激昂した。
「調停委員に指名されたのに、個人的な処理をするとなると、調停員の面目丸つぶれ」と親友派を批判し、「大幹部独裁の旧弊を打破し、刷新を計る」と宣言して、四人組は飛び出してしまった。
鶯童と玉治はそこまで乗る気ではなかったが、瓢右衛門と紅天に説得され「浪曲連盟協会」に参加。四枚看板で、浪曲親友派と喧嘩を行う事となった。その急先鋒に立ったのが、紅天であり、紅天は大ビラや親友派の腐敗を演説する程の熱の入れようであった。
しかし、この連盟協会も一年も持たずに、御破談。まずは玉治が詫びを入れて復帰し、瓢右衛門と紅天も戻った。鶯童は責任感から最期まで対抗したのが皮肉であった。
この一件で紅天は大いに面目を潰してしまったそうで、残る三人とは違い、零落の道を辿る羽目になった。
またこの一件の後、肺病を患い、思うように舞台に出られなくなってしまった。これが元で借金や不義理を重ね、結局親友派からも疎遠になるというのだから、哀れである。
梅中軒鶯童によると、亡くなったのは、1932年頃。『浪曲旅芸人』に――
紅天が死んだのは昭和七年だったと思う。最後の二、三カ月前に当然桃谷の私の住居へ訪ねて来たことがあった。肺患が余程悪化していたのか蒼い顔をしていた。
「美濃さん、いよいよこの身体では往生や、薬代借りに来た」
気力衰えた彼を励ますつもりで、私は冗談交りで逆のことを言った。
「もう永いことはないやろ、散々悪事を働いて来たのやさかい、この上生き延びていたら罪が重うなるぜ」
「それもそうや」
と言って笑っていた。借り貸しは面倒やから香奠前渡しにしておく……と黒水引の包みに、金高は忘れたが何程かの壱封を渡すと、
「香奠の前取りしといたら思い残りが無うてええわ、死んでからなんぼ貰うても間に合わんさかいなア」
お互いに冗談を言い合って別れた、それが終りだった。冗談が真実になって、私がどこかの旅巡業中に彼は死んだ。後日誰やらに聞くと、彼の死んだ病室の横額に”自業自得”と書いてあったと、尤もらしく言った者があった。
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