落語・訪問売

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訪問売

 訪問売は一見すると便利であるが、押し売りになると困ってしまう。
 戦前の訪問売の中では、越後の毒消しと保険屋が悩みのタネであったという。
 ある家の門口に一人の男が立つ。主人が応対すると、男が「負傷兵である」と名乗り、「この旅の戦争でケガを負った」「しかしこの薬で一通り表に出られるようになった」と、名誉の負傷兵である事をダシに「薬を買ってくれ」と談判する。
 主人が困っていると、男は一方的に己の来歴を話し始める。しかし話を聞いて来るうちに、その話がどうも嘘っぽいので、発言の端から揚げ足を取っていくと、この男がニセの負傷兵であることが判明する。
 主人が呆れて一喝すると、男は帰っていった。
 すると今度は越後の毒消しがやって来て、「最近は流行病の多い世だから、越後の毒消しを買いなさい」とこれも強気な態度。
 そこへ保険屋の女勧誘員がやって来て、「こういうご時世だから保険に入りませんか」と、鉢合わせになる。
 これを見た毒消しは「こちらが先の客だから、お前は帰れ。大体、保険なんてのは飲んだ所で毒消しにもならないだろう」と罵倒する。
 保険屋も保険屋で「まあ失礼な。そんな事はありません。大体、毒消し飲んで死んだら積立金が下りるんですか?」と嫌味を返す。
 双方、契約してもらいたい意地と張り合いから「なんだこの野郎」と取っ組み合いの大喧嘩を始める。
 両人共に爪をむき出しにして、相手の髪を引っ張り合い。そうこうしているうちに二人とも髪をむしり取ってしまい、無残な坊主頭になってしまった。
 嘆く二人の坊主頭を見た家の主人、ケラケラ笑って、

「なるほど、薬と保険の喧嘩だから終いが坊主だ。」

『読売新聞』(1936年5月11日号)

 柳家金語楼、五代目古今亭志ん生の師匠である初代・柳家三語楼が演じた新作落語。

 この頃、三語楼は既に人気も実力も落ちており、弟子の金語楼の人気にすがり、新作落語や、三遊派譲りの人情落語に挑戦するもうまくいかないという不遇の日々を送っていた。

 そんな中で生み出された落語の一つであろう。三語楼はこの二年後、静かに息を引き取る事となる。

 しかし、かつてナンセンス落語で一世を風靡し、古今亭志ん生に大きな影響を与えた人物だけあって、独自の観点や世界観を構築している。

 流石に越後の毒消しと保険屋では古臭いが、他に置き換えたら結構やれる噺ではないだろうか。

「薬と保険の喧嘩だから終いは坊主」というオチは、「薬石効なし」「死亡保険」という意味を書けたものであろう。「死んだら坊主で葬儀をあげる」という二重の意味を含んでいる。

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