落語・床かざり

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床かざり

 申年の正月に、鶴さんと亀さんという仲良し百姓が庄屋さんの元を訪れる。
  庄屋さんは立派な掛軸を飾り、猿の置物を置いている。
 二人が「今年の干支にちなんで猿の置物ですか」と尋ねると庄屋さんは「それもそうだが、先祖のことも忘れぬようにな」という。
「へえ、庄屋さんの先祖は猿だったんですか。ちっとも知らなかった。そのくせ顔は狐に似ていらぁ」
「お前さん口が悪いね。いや、私のご先祖様は山奥で猟師をしていたんだ。ある時、大猿を見つけてこれを生け捕ったんだ……」
 意気揚々と猿を縛り上げて、家に帰った猟師。明日売りに行こうと生きたまま家の柱にぶら下げておいた。
 すると夜中、外からガタゴトと不気味な音がする。何かと思ってよく見てみると大猿の子どもたちがみんなで集まって親猿を下ろそうと柱の前にいた。
 この優しい孝行心に心打たれた猟師は、すぐさま大猿の紐を解き、山に帰してやった、という。
「以来、ご先祖様は猟師をやめて山を降りて一生懸命に畑を耕した。その畑は大豊作続きだったそうで、ついには所の庄屋になった。そんな遺徳を忘れぬために作ったのがこの猿の像だ」
「へえー、一体旦那のお里はどちらですか。山の方ですと山形かそのあたりですか?」

「なに、狐に猟師に庄屋とくれば、東八ケンだろう」

『都新聞』(1944年1月1日号)

 四代目柳家小さんが戦時中に掲載したネタ。戦意高揚落語の特集として挙げられているのだが、それにしても長閑な話である。

「都道府県」という概念が出て来る辺りが近代であるが、それ以外は古い小噺から持ってきたようなのどかさである。じわじわと笑いを導き出すのが得意だったという小さんのこと、とぼけた百姓と庄屋の会話が面白かったことであろう。

 オチの「東八ケン」とは、江戸時代に流行し今日も伝わる遊戯の一つ。じゃんけんの理屈と同じで、キツネ・庄屋・狩人の手を出して、三本連勝した方が勝ちという遊び。

 キツネは庄屋を化かすので庄屋に強く、庄屋は権力があるので狩人に強く、狩人は鉄砲を持っているのでキツネに強いという算段で興じられる。

 キツネに似た庄屋に大猿という取り合わせを引き合いにして「東八拳」と落している訳。

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