落語・子宝

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落語・子宝

 古くから子供は「子宝」と呼ばれ、貴重な存在として尊ばれてきた。
 さる新婚夫婦の間が子宝を授かった。妊娠を知った妻は恥ずかしそうに夫に報告をすると、
「愛の結晶が出来た……本当にうれしい……」
 と涙ぐみながらも、「それは男かい、女かい、ちゃんとお腹の真ん中にいるのかい」といささか気の早い事を言い始める。
 妻が「まだそんな時期じゃありませんよ」というと、夫はなおうなずいて「立派な子に育ってくれればいいが……体が弱い子は嫌だな、熱でも出したらどうしようか。今のうちに小児科に行った方がいいんじゃないか」とそそっかしい事を連発し、「今から小児科へ行ってくる」と妻の制止も聞かずに家を飛び出して、小児科へ転がり込む。
「先生、予防接種はいつごろやった方がよろしいでしょうか」
「早い方が結構ですな……今やってあげましょうか。お子さんはどちらへ?」
「いや、まだ妻のお腹の中で」
「それじゃ無理ですよ」
「なんだい、そんな事も出来ないのか。日本の医学は遅れている」
「変な人が来たね……無理ですよ。生れてからおいでなさい」
 体よく小児科をつまみ出されてしまった。
 帰り道、近所に住む鈴木さんの奥さんに声をかけられる。
「あら、小山さんじゃありませんか。嬉しそうにしてどうしました」
「いや、はや、その……実は我が家に子供が出来ましてね」
「あら、それはおめでとうございます。親子とも健全ですか」
「は、今のところピンピンしております」
「そうですか。存じませんでした。後にお祝いに参ります。ごめん下さい」
 奥さんは家に帰ると亭主に「さっき、小山さんにあったけど、赤ちゃんが生まれたって話よ」と、話をする。
 亭主は驚いて、「そんなバカな。子供が出来たなんて一言も聞いてないよ……表通りを歩いて、嬉しそうに話していた? さては驚かそうと隠していたんだな。男か女か? 聞かなかった? あわてもんだなあ、お前も……しかし、近所でそんな事を知らなかったのは恥ずかしいね。お祝いに行こうか。手ぶらじゃ申し訳ないから、おもちゃでも買っていこうじゃないか」
 気のいい鈴木夫妻、おもちゃ屋で立派なおもちゃを買って、小山邸へとやって来た。
「ごめん下さい、鈴木ですが」
 応対すると「この度は出産おめでとうございます」と丁重にお祝いを述べられ、「赤ちゃんにこれをあげて下さい」とおもちゃまで渡された。
 驚いたのは主人で、「こりゃ困った。妊娠した事を子供が生まれた事と勘違いされたな」と、狼狽する。
 妻に「この場だけイキって何とか赤ちゃんを取り出してくれないか」というと、「そんな事が出来ますか」と怒られた。
「その場を凌がなきゃならない……近所から子供を借りてくるか?」
「借りるってどこへ?隣の坊ちゃん?」
「あれは5つだから大きすぎる。八百屋に居なかったか?」
「あれは犬でしょう」
「犬じゃ困る……どうしよう」
「しょうがないわねえ。あなたが行っている床屋さん、あそこの奥さんが一週間前に子供をお産みになったそうよ。床屋さんの子を連れてきますか?」
「なに、一週間前に床屋が……? そりゃいい事を聞いた。早速行って借りてくる」
 無責任なもので、床屋へ行った旦那、「少しだけ貸してくれ」と床屋で寝ている子供を抱きかかえて家に戻り、何食わぬ顔で鈴木夫妻を迎え入れた。
「やあ、すまない。入っていいよ」
「これはどうも。このたびはおめでとうございます。ああ、奥さん寝たままで大丈夫ですよ」
 鈴木夫妻は改めてお祝いを口にして、
「男かい、女かい?」
 と尋ねる。しかし、急いで借りてきた旦那はそんな事は判らない。
「お、女だ」
 とごまかしたが、その直後に赤ちゃんが泣き始める。調べるとおむつが濡れていた。鈴木夫妻が「おむつを替えてあげよう」というので、急いで制するが、鈴木夫妻は「こういうのは慣れっこだ」と意を介さず、おむつをめくってしまう。
 下半身についていたおちんちんを見て、鈴木夫妻は「やあ、男じゃないか」とあきれるが、「嬉しさのあまりに動転して……」と、それらしく取り繕う。
 鈴木夫妻、すやすや眠る子供を見て「いや、しかしこの子は頭のいい子になるね」と感心する。
「頭のいい子になる?そんなのがわかるかい?」
「わかるよ。目を見りゃ分かる。いい目をしているよ。リハツそうな子だもの」

「なに、リハツそうだ? やっぱり床屋さんの子だけある」

『名作落語全集5』より

「子宝」は柳家金語楼の実弟で新作落語の名手であった昔々亭桃太郎が「百田芦生」名義で執筆し、自作自演を行った新作落語。

 当人は「子供が出てくるめでたい噺が少ないものだから創作した」と語っていたという。

 成立は1948年頃。当初は「ご祝儀用」に演じていたようであるが、避妊薬や避妊手術の悪用が増えたことをうけて「子宝の大切さを伝えたかった」という意味合いを込めて演じるようになったという。

 話としてはすんなりまとまっていて、可もなく不可もなしといった所か。

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