落語・殴られ屋

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殴られ屋

 ある男、鬼の人形へ土器をぶつけて癇癪を晴らす遊び(今もゲームセンターなどにあるばいきんまんや怪獣にボールをぶつけて点を競うゲームに近い)からヒントを得て、
「人間を殴ればもっと胸がすっとするだろう。」
 と、一つ「殴られ屋」なる商売をはじめた。書いて字のごとく、自分の頭を一発殴ってもらって金をもらうという魂胆である。
 ボール紙へ「一回十銭」と書き連ねて一通りの多い街角へ立った。
 口あけに重役から怒鳴られてイライラが募っているサラリーマンがやってきて、一発ポカリ。いい気持ちになったサラリーマン、礼を述べて十銭置いていく。
 次にやって来たのは亭主に浮気されて、ヒステリーを起こしている奥様。

「あの南瓜野郎!!くやしい!!」と旦那への恨みつらみをぶちまけながら、殴ったりつねったりはたいたり。暴れるだけ暴れてすっきりしたのか殴った数だけのお金を置いて帰っていった。
 最後に来たのが、顔も風体もヤバい悪人風の男。「一回十銭ですよ」と念を押して殴らせるが、殴っている内に興奮したと見えて、懐から短刀を抜いて殴られ屋に向かってきた。
 間一髪で難を逃れた殴られ屋、怖さと怒りからポカポカと三発、お客の顔を殴ってしまった。
 我に返った男、ナイフをしまいながら殴られ屋の前に出て、

「おい、三発殴ったから三十銭よこせ」

『読売新聞』(1935年2月8日号)

 林家三平の父、七代目林家正蔵がやった新作。七代目林家正蔵は、歴代正蔵の中でも異色な存在で、新作や漫談風の噺を沢山作っている。

 うまい下手は兎も角、当時の寄席の流行や風俗を反映されたそれは、当時の趣向や観客の好みというものを考えさせる。こういう突飛なナンセンスさが倅に受け継がれたのだろうか。

 発想としては面白い。ストレス時代のはけ口としてわざと「殴られ」という事を演ずる姿にそこはかとない哀愁を感じる。これ、コントにしたら面白いんじゃないだろうか。

 流石に今日落語でやるには欠陥がありそうだが、「暴言屋」辺りやれば面白くなるのではないか。保証はしない。

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