落語・酒は水

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酒は水

 酒は飲むべし飲むべからず、酒で身を持ち崩す人は多い。
 呑兵衛の虎さんという男、今日も今日とて泥酔で帰ってくる。
 心配なのが妻(小文治は主婦という)で、 

「今朝お医者はんが何ていいやはったか覚えないのか、あんた酒飲んだらいかん、血圧は上がるし、中風にもなるとあんなにいいなはったやないか。自分の体やったらちいとは気ぃつけたらどうや、床につくようになつたらどないするつもりかいな、貯金はあらへん、死ぬならころっと死になはれや」
 などと悪態をつく始末。虎も虎で酔った機嫌でついカッとなり、
「俺を死なせて若い午前九時発車を待つんやな」
 などと洒落をいう。
「なんや若い午前九時発車とは」
「東京駅を午前九時に発車する電車の名前を考えてみぃ」
「つばめやがな」
「それや、若いツバメを連れ込むのや」
 二人は夫婦喧嘩になる。
 そこへ
助さん市さん」という友達が虎の家の近くまでやってくる。
「寒いし金はないし、なんか一杯ありつける工夫はないか」
 と相談していると、虎の家が近くにあるのを幸いに転がり込む。
 呑兵衛友達が来た、と妻は心の中で嫌がるが、追い返すわけにも行かず、渋々家にあげる。
 そして、こっそり二人に向かって、
「お医者はんから酒を止められたんだす、あんたらを男と見込んで頼みがおますが、一升徳利に水を入れて来るさかい、これを甘い酒やというて飲んどくなはれ」
 と、頼み込む。助さん市さんは驚くが、普段の恩義の手前断るわけにも行かず、了解をする。
 さて、酒屋へ行ったふりをした妻が、徳利に水を入れて帰ってくる。
 妻は「燗をする」というが、酒好きな旦那にねだられ、冷で出す。
 二人は水と承知しながら一気に飲んで、虎の目を欺こうとする。
 しかし、何杯も冷たいものを飲んでは腹にこたえる。遂に二人は挨拶もそこそこに逃げ出してしまう。
 水っ腹で表を歩いていると向こうから顔見知りの男がやってくる。誰でもない、虎の弟であった。
 弟はげんなりしてゲップばかりしている二人をみて、
「兄貴の家で変なもの飲まされたな」
 と尋ねる。
「隠さんでええがな、言ってみいな」
「ゲープ」
「ゲップやのうて、言わんかいな。そんな隠さんでもええやないか、水臭い」
「え?」
「水臭いやないか」
 という言葉に二人顔を見合わせて、

「そう、そうやろ、私が二杯、助は三杯飲まされた」

『読売新聞』(1934年5月23日号)

 桂小文治がやったネタ。上方落語由縁のネタらしいが、小文治は「主婦」「ワイフ」とかいっているため、なんだか辛気臭く感じる。

 ネタそのものは、小咄っぽい所があって、そこまで悪くはない。仕立て直せばできるんじゃないか。

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