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新年宴会
町内の若い衆が新年宴会をやろうということになったが、皆揃いも揃って金欠である。
金も酒もない一同、無い知恵を絞って相談の結果、横丁の兄貴分が新世帯を持った。これを褒めるついでに宴会を授かろうという算段を立てた。
兄貴のところへ行くと菰樽がおいてあり、兄貴も「よく来た、あがれ」と招いてくれた。
兄貴は田楽を大量に注文し、「こいつを食べることにしよう。しかし、普通に回し食いでは面白くないから、ん回しをしよう」と提案する。
一同は「みかん」「れんこん」「きんかん」などといっては一本二本引き抜いていく。強いやつは「坊さん坊さんなんでウンウン唸るんや」といって、八本もらうやつまで現れた。
その中のひとりが楊弓(弓矢で遊ばせた娯楽施設)のマネをして、
「スツトンそれ一本、スットンそれ二本、カチン三本、ブツン四本、矢が当って鐘がなるリンリンリンリンさあ合計五十八本だ」
田楽を山のように取って口に入れるとこれが生豆腐。やけにベチョベチョしていてうまくない。
「なんで俺だけ生豆腐なんだ」
と男が怒ると、周りは「だってお前は今楊弓の真似をしたろう、だから焼かず(矢数)に食わせたのだ」
『都新聞』(1936年1月7日号)
「新年宴会」は、五代目三遊亭圓生が時折演じた古典落語の改作。内容は「寄合酒」「ん回し」の焼き直しである。というよりも筋がそのまま「ん回し」である。これをそれらしく改題したにすぎないものか。
古い型だと、ズルい男が、「半鐘があっちでジャンジャンジャンジャン、こっちでジャンジャンジャンジャンジャンジャン、消防自動車が鐘をカンカンカンカン……、ジャンジャンジャンにカンカンカン……」と火事の真似事をして、生の田楽を食わされる。「焼けた田楽をくれ」と怒ると、「今のは火事のまねだろう。だから焼かずに食わせるんだ」。
楊弓とは、「矢場」の事。小型の弓矢を打って遊ぶ遊戯施設で、的に当たると店員が大仰に声をあげたり、褒めたたえた。射的屋の親父のようなものである。
後年、娼婦の待合のような一面も持った。ここに出入りする娼婦を「矢場女」といい、女遊びは非合法であった。今日でいう所の非合法ソープというべきだろうか。
こんな矢場で遊ぶのは危険であるところから転じて、「矢場い」→「ヤバい」という言葉が生まれている。ちょっとした豆知識である。
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