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落語・太陽
落語でお馴染みのキャラは、知恵の足りないおバカな与太郎。ぼおっとしているくせに、変に熱心で周りを巻き込んでいく。
ある家の与太郎、二十一歳になるが、余りにも馬鹿なため、近所から呆れられている。父親は与太郎の処遇に頭を抱えており、八百屋の俸手振りを始めさせるが、れんこんを「穴が空いているから駄目だ」と全部切ったり、ゴボウを洗って真っ白にしてしまったり――と何の役にも立たない。
呆れに呆れた父親は「お前みたいなやつは信心でも持って、私のバカが治りますように、と祈りなさい」と神仏への信心を勧める。
さて、父親から信心を勧められたものの、「大黒様は米俵に乗っていて生意気だ」「弁天様もこの不景気では信仰では食っていかずに放送局で琵琶を弾いている」などと、不敬な事をいうばかり。
これを見兼ねた友人が「お前、拝むならおひさま、お天道様、太陽を拝め」と勧める。
「これはいい事を知った」と与太郎は次の朝から早起きして太陽を拝み始めるが、太陽は日が経つに連れて昇って行く。太陽が動く事を知らない与太郎は「あれあれ逃げてしまう」と追いかけ始める。
与太郎は太陽を追っかけ回すが、当然追いつけるはずもない。何時しか日は傾いて、夕日になってしまった。
「大変だ、おひさまが隠れてしまった。意地の悪い奴だ」
与太郎はあたりかまわず西へ西へと走り続ける。
一晩中走り続けた与太郎の後ろから、朝日がにゅっと顔を出した。これを見た与太郎、「しまった、通り過ぎてしまった!」
『評判落語全集 下巻』
小噺のようなネタである。小噺を引き延ばしたのだろう。与太郎モノとしてはお馴染みのスタイルであって、相応に面白いが傑作とは言い切れない。
ナンセンスな落語と音曲を得意にした三代目柳家つばめが時折演じたという。『落語全集』でも演じ手はつばめという事になっている。
ただ、どれくらいの頻度で演じていたのか判らない。一種の逃げ噺(やる気のない時に演じるネタ)だった可能性もある。
そのくせ、つばめ亡き後、関西落語界の長老・橘ノ円都が演じた記録がある。どうして円都がこんなネタを知っていたのか知る由もないが、一応に演じられていたとはいえる。
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