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世直し
ある長屋の一角で、今日も今日とて一組のが喧嘩をしている。
『読売新聞』(1934年11月19日号)
喧嘩の真っ只中、ふと人の気配があるのであたりを見渡すと家の中に見知らぬ爺さんが上がり込んでいる。
不審に思った夫婦が爺さんに声をかけると、爺さんは「俺は貧乏神だ」といい、この家に引っ越してきたと笑う。
貧乏神に引っ越されたのではたまらない。
夫婦は長屋連中を集めて派手にどんちゃん騒ぎすれば、その景気の良さに圧倒されて貧乏神も出ていくだろうと考え、長屋連中を呼んで酒肴を振る舞い、どんちゃん騒ぎを始める。
一杯機嫌になった仲間たち、「どうでえ一つ都々逸合戦と行こうじゃないか」と、都々逸をそれぞれ歌い始める。うまく歌えるも、トンチンカンな文句を出して仲間から呆れられるもの。さまざまである。
更に声がいいのが、「アラ推量推量」「銀座の柳は袖引き柳」などと俗曲や流行歌を唄い始める。
歌えや踊れやで大変な大騒ぎ。まさに宴会という雰囲気となる。
みんないい気持になって、宴もたけなわになったころ、貧乏神がそそくさと家から出ていこうとする。
「ほら見ろ、景気のいいのに驚いて、出ていこうとするぞ」
と夫婦が笑うと貧乏神は首をふって、
「いや、これから友達を呼んでくるんだ」
宮尾たか志の父親で、音曲が得意だった三代目柳家つばめがやったネタ。
噺自体は小噺に近い。大黒様が宴会にあこがれて中に加わろうとする目出度い噺は『黄金の大黒』であるが、これは全く逆の貧乏神というのがおかしい。それを宴会で追い出そうという長屋の人々の悲喜こもごもが良く詰まっている。
どんちゃん騒ぎの中で演じられる都々逸や音曲が聞きもので、好きなところで切ることができる便利な話だったようだ。
つばめという人は上州訛りのきらいこそあったが、男っぷりが良くて、声も良かったところから、音曲師として成功した。
色々な曲をそらんじていたそうで、おなじみの都々逸、大津絵といった所から、推量節、鴨緑江節、『銀座小唄』などといった流行歌や寄席の音曲まで混ぜてやっている。
寄席ではお客のリクエストや時間配分をうまく手玉に取りながら、やっていたという。
音曲噺が廃れた今では柳家つばめ同様に音曲づくし、音曲本位でやるのは難しいだろうが、『長屋の花見』とか、貧乏の落語の前置きとして、小噺的な形で話を振ったらこれはこれで受けるかもしれない。いいネタである。
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