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楊貴妃
クレオパトラ、小野小町と並ぶ世界三大美人とうたわれる楊貴妃。玄宗皇帝をまどわし、悪政のキッカケを作った悪女としても知られている。
妾三千人と称された玄宗皇帝、せがれの寿王の婚約者、楊貴妃に一目ぼれ。倅から強引に楊貴妃を奪い、自分の愛人にしてしまった。
はじめて楊貴妃と面会した玄宗皇帝、楊貴妃に「そなたは琵琶の名手と聞くがその腕前を一つ余に聞かせてくれ」とふっかけると、楊貴妃は鼻を指ではじいて「これが本当の鼻琵琶」と洒落る。
以来、玄宗皇帝は楊貴妃にぞっこんで、彼女のいう事を何でも聞いてしまう。これに乗じたのが楊貴妃の一族で、もはや楊とつけば誰でも親戚になってしまう。今日も今日とて、親戚と称する人物が長蛇の列。役人たちが点呼を取ると、
「私はヨウ・チエン」
「わしはヨウ・ロウイン」
「拙者はヨウ・ジンボウ」
「あっしはヨウ・イワンワ」
どう考えても怪しいがそれを取り立ててしまう。かくして高官高位に上り詰めた楊一族は贅沢三昧。家から家具まで黄金で作った家を作ろうともくろみ、役人をゆすりたかる。
役人も権威には勝てずに「それでは早急に作ります」というと、楊一族は、
「しかしトイレだけは別じゃぞ。金隠しだからな」
かくして酒池肉林が繰り広げられ、親類の楊国忠などは玄宗皇帝に取り入って悪政三昧。
こんな一族の専制が当然許されるはずもなく、玄宗皇帝から遠ざけられた古老や忠臣たちは安禄山をリーダーにして、逆賊・楊国忠を殺さんと挙兵をし、あれよあれよという間に都に迫った。
玄宗皇帝は楊貴妃を連れて都落ちをするも、反乱軍の勢いはとどまる事を知らない。
家臣の高力士は「反乱軍はいまだに留まる事を知らない。それは楊家のものが生き残っているからです」と、楊貴妃を殺すように進言する。
玄宗皇帝はそれを聞いて嘆き怒るも、楊貴妃は「陛下のために死ぬ」と決意する。楊貴妃が死ぬ段になり、玄宗皇帝は慟哭する。
余りの嘆きを見た家臣たちは
「陛下、お嘆きあそばれますまい。すべては夢でございます。幻でございます」
と慰めると、玄宗嘆きながら「幻とな。おお、そうじゃ、すべては幻、幻想(玄宗)のなせるワザじゃ」
『新作落語傑作選集』より
鈴木みちをが執筆し、四代目柳亭痴楽が演じたもの。歴史の一篇を面白おかしく茶化したいわゆる「地噺」の部類である。
痴楽はイレゴト(アドリブ)がうまく、その時々流行っていた流行語や歌を取り入れて、中国きっての悲恋を徹底的に茶化して見せたという。
漫談に近いために時間のやりくりがよく効き、噺も結構面白かったようであるが、色々な関係で音源化されていない。残念なものである。
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