落語・角力の放送

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角力の放送

 櫓太鼓の音ともに「只今より国技館相撲場より中継放送いたします」とアナウンスからはじまる。
「取組は武蔵川と清水川です(※時代時代で横綱格の力士を入れ替えた)」
 アナウンサーは、土俵の様子をアナウンスしながら、
「学生の応援団が万年筆を振り回すのでインクがあたりに飛び散り、見物の顔にかかり、喧嘩になります。しかし、相手は顔に『黒星』がついたと喜んでおります」
「夫婦連れの見物人がおります。主人は西方、奥様は東方の大の贔屓、相撲が始まると遠慮なく別々の相手を応援するので夫婦喧嘩が始まります」
などと頓珍漢な観客模様を実況する。
「お待たせいたしました。武蔵川清水川の一番、ただいま両力士土俵をおりて水をつけております。あれでちょうど手桶に十杯目です。随分と飲みます……」
 と、軽口を叩きながら両力士の身長体重、経歴、得意の取り口などを紹介する。
 取り組みが始まるが、規定十分の仕切り直しがあり、なんやかんやとケチが付き、四十八回目の最後の仕切りになる。
 ズシンズシンと四股を踏む音で、マイクロフォンが後ろ向きになり、アナウンサーは揺れながらマイクロフォンを直して実況する。
「行司前へ……じりっとおケツを振って詰め寄る、立ち上がりました!立ち上がりました!強烈な突っ張り!」
 大盛りあがりの取り組みの間、一人の男が興奮のあまりに前の人のネクタイを締め上げる。
「苦しい!離せ!洋服が破れる!」
 前の男が怒ると、興奮した男も負けじと、
「破けるような洋服があるものか!どこで買ったんだ!」
「デパートで買ったんです!」
「嘘だ、大方が柳原(※昔、古着市場が盛んに出ていた地域)だろう」
 また、一方では爺さんが「これは熱い試合だ。本当に熱い。燃えるようだ」などと白熱しているが、熱いのは当然。煙草盆から転げ落ちた火が袂に入って燃え出しているから。
 周囲の見物が驚いて水をぶっかけ、消防署へ電話しようとすると、爺さん落ち着きはらって、
「心配するな、火災保険に入っている」
 土俵の真ん中には両力士の汗で水溜りができ、「はたけはたけ!」と喚いてる客に、隣の客がお灸の跡を引っ張ったく。
 ドタバタな相撲場風景が続くが肝心な武蔵川と清水川の対決は未だに終わらない。両者一歩も動かずーー動かないはず、力を入れすぎて、土俵に足のねじ込むこと、一寸五分。

「五時四十分になりました。残念ながら中継放送はこれで打ち切りでございます。」

『読売新聞』(1932年1月31日号)

 三遊亭金馬の新作。放送のスタイルをとりながら、どんどん小咄を挟んでいく『相撲場風景』『浮世床』などといった便利な噺である。

 長くても短くても、また漫談のようにも話せることから、戦後も度々語っていた。その戦後のライブ録音はCDで聞くことができる。

 戦後は、相撲だけでなく、スポーツ放送みたいな形でもネタにしていたようである。

 金馬の活躍期間がちょうどラジオ放送創設期から、戦後の絶頂期にあったため、このような「放送」を茶化すネタもできたのだろう。

 今日ではちょっと不利なところや古臭くなっている部分もあるが、やろうと思えばできるネタではなかろうかね。

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