落語・代用品

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落語・代用品

  戦時中、少しでも物資を軍や戦地に回すために「代用品」の使用が奨励された。スフや陶器の家具などはまさにいい例であろう。
 婦人会の支部長から「少しでも無駄をなくし、代用品を使ってお国に貢献しよう」という演説を聞いて感動した、少しピントのずれた奥さん。
「代用品時代」に乗り遅れてはならぬと一人やる気を出し、時局に便乗しようとする。
 家に帰って女中を捕まえた奥さんは、「これからは代用品時代である」と支部長の演説の受け売りを始め、時局協力の大切さを説き始める。
 途中までは良かったが付け焼刃とやら、「ステープルファイバー」(化学繊維の一つ。代用品として重宝された。通称スフ)が思い出せず、しどろもどろ。
 思い出せないまま隣家を訪ねて、ステープルファイバーのことを聞くが隣家の奥さんも言うことがトンチンカンで話にならない。
 さらに床屋へ行くがみんながみんな「代用品は大切」といいながらステープファイバーのことを答えられない。
しばらくすると、旦那が仕事から帰ってきた。そこでスフの話をすると旦那はさも当然という顔で、
「毛織物や綿紡の節約のためにパルプすなわち、木から取ったものを入れるのがスフだ。綿類には2割以上入れるという決まりになっている」
 これを聞いた奥さん感心して、

「へえ。めん類、それならお蕎麦屋さんで聞けばよかった」

(『読売新聞』1938年9月3日号)

 桂小文治が演じた作品。スフの奨励を盛んにするところを見ると、国策落語に準じるネタである。

 戦争直前の挙国一致や代用品奨励の姿がよくわかる一種の風俗史料といえよう。ただ、内容は甚だ愚劣。今やろうたって無理である。

 桂小文治という人は、きちんとした噺を出来るのにもかかわらず、変な新作をやる。そのくせ、それが愛嬌になるのだから不思議である。頼もしい限りである。

 小文治の愚劣な新作を見るたびに筆者はニコニコとする。うれしい人である。

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