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新聞見合い
あるところに父と娘・よしがいた。父は男手一つで娘を育て上げ、嫁に行かせた――が、すぐに旦那に死に別れ、未亡人になって帰ってきてしまった。
娘は23歳、まだまだ婿の貰い盛りである。父親は娘の未来を案じて「好きな人があるなら再婚するがいい、見合いをしたければ見合いを紹介してやろう」という。
一方、娘も娘で、父親が自分ばかりに気を取られて、遂に男やもめで来てしまったことを気にしており、「お父さんこそ、再婚なさったらどうですか。お父さんが再婚なさるまで、私は嫁には行きません」と言い返す始末。
父親は「私はもう53歳だぞ、誰が嫁に来てくれるか」とあきれるが、娘の幸せも願ってか、こっそりと再婚する志を立てる。しかし、大っぴらに恋をする歳でもないので、新聞見合いを使って、相手を募集する事にした。
数日後、新聞を見ると先日送った広告が出ている。「51才、容貌は42、3より上にみえず、月給は150円以上、20代~30代の相当教育のある女性との再婚を求む。写真見合い謝絶」云々。父親は娘に悟られぬようこれを読み、「また少ししたら返事が来るのではないか」と胸を膨らます。
さらに数日後、新聞社を訪ねに出かける。窓口で「頼まれてきた」という名目で「先日の見合い広告に返事がありましたか」と尋ねる。係員は「ありましたよ」と手紙を出してくれる。
手紙を受け取って中を見ると、「年は23歳、容貌は並、普通教育あり、ぜひとも結婚したし、明日日比谷公園雲形池のほとりの休息所におります。目印に新聞とステッキを身につけ、海老茶の墓、束髪紫のリボンをかけており……」とあった。父親はこの内容に感心し、「これなら見合いをしていい」と喜んで帰っていく。
次の日、父はいそいそと出ていこうとすると、娘も「お父様、用事があるのでちょっと出かけたい」という。父親は「家を留守にするわけにもいかないから留守番してなさい」というが、娘も「今日しかできない用事なので……」と引かない。
父親は「私も大事な用事だから」と娘を叱って出ていく。そして、日比谷公園に辿り着き、手紙の主を探していると、それらしい人が見つかった。
喜んで近寄るとなんとこれが娘。
「娘か」
「あら、お父様。じゃあ先日の新聞見合いは」
「私のことだ……」
二人は恥ずかしいやらあきれるやらでロクに顔も合わせられない。父親は娘に向って、「イヤ、よし、亭主を持つなら新聞見合いはよせ」
『落語名作揃』
仮名垣魯文の弟子、川上鼠文が執筆し、新作落語の雄だった三遊亭円左が口演したもの。当時、新聞が珍しい上に「新聞見合い」という新しい結婚方法が話題だったためによくウケたという。
今見返すとなかなか封建的な作品とも取れるが、しかし、娘のおきゃんさは現在に通じるものがある。
これを今から改作して、持ちネタにする――と考えるのは無理だろうが、明治時代のサンプルとして、演じるのはありかもしれない。
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