落語・恋の淵流れの浮草

[random_button label=”他の「ハナシ」を探す” size=”l” color=”indigo”]

落語・恋の淵流れの浮草

 大阪のある店に、佐兵衛という若者がいた。
 正直実直で十五年間勤勉に働き通す人物で、店の者から信頼されていたが、周りの勧めで難波新地に遊びに行った際、梅吉という芸妓に一目ぼれしてしまった。
 真面目な人物ほど、遊びに迷うと凄まじいとなる例えやら、佐兵衛もたちまち梅吉に熱をあげ、借金まみれになってしまった。
 不義理の果てに、長らく奉公した店から暇を取り、梅吉と二人で江戸へと向かうが、これもまた路銀を使い果たしてしまう。
 命からがら江戸へたどり着くも暮らす当てもなく、佐兵衛は永代橋から飛び降り自殺を計ろうとすると、そこへ男が止めに入った。
 その男は、日本橋本町に住まいする鳶頭の嘉吉という懐の広い人物で、二人の境遇に同情した嘉吉は「身の振り方が出来るまでしばらく我家に来るといい」と、家に転がり込む事となった。
 しばらくその日ぐらしをしていた二人であったが、佐兵衛は元々実直な人柄ゆえに「このままではいけない」と、江戸で稼業を思い立ち、その為の金策を得ようと故郷大和へ一旦帰ることを決心した。
 梅吉にその旨を話すと泣きつかれたが、背に腹は代えられず、佐兵衛は大和へ行き、親類縁者に頭を下げて何とか稼業の出来るだけの元手を得た。
 一方、江戸に取り残された梅吉は、当初は泣いて暮らしていたが、家に出入りする鳶の者や旦那と懇ろになるうち、「あんな佐兵衛よりも旦那衆の方が金を持っている」と、佐兵衛の甲斐性の無さに愛想が尽き、他の人と浮気をはじめるようになった。
 なんとか元手を得て帰ってきた佐兵衛を待ち構えていたのは、梅吉の冷たい態度と愛想尽かしであった。
 浮草稼業故に贅沢な育ちをしてきた梅吉は、佐兵衛のような甲斐性の無い男は一生浮かぶような事はない、と罵倒し、そのまま愛想尽かしをして出て行ってしまった。
 愛する者の裏切りと愛想尽かしを聞いた佐兵衛は、凄まじいショックを受けて、一度は死んでしまおうかと考えたが、周りの者に意見されて、「一度捨てた命と思って新しくやり直そう」と、これまでの生活は夢だと諦めて、実直な商売生活へと戻った。
 根が勤勉だけあって、僅かな元手から徐々に仕事と店を広げていき、遂には江戸を代表する商人にまで成長した佐兵衛。
 一方、梅吉は旦那と再婚するも捨てられ、佐兵衛の元に戻ろうと案じるが、佐兵衛が余りにも立派になりすぎたが故に合わす顔もなく、寂しい生涯を送る羽目になった――という因果応報の一席。

『読売新聞』(1935年4月3日号)

 二代目談洲楼燕枝が演じた落語。芝居噺だそうで、三遊亭円朝以前の古い古い「人情噺」「芝居噺」のあり方という物を伺わせる代物である。

 談洲楼燕枝は、地味でずば抜けてうまいという人物ではなかったそうであるが、滋味のある語り口だったそうで、こうしたしんみりした噺には意外な趣があったという。

「芝居噺」とあって笑いどころが少なく、最後の梅吉の愛想尽かしの下りは、歌舞伎の声色やお囃子を入れて結構派手に、如何にも古風にやって見せたという。

 今日やるにはやや難しいかもしれないが、ネタとしては結構面白い。むかし家今松や春風亭一朝あたりがやれば結構聞けるネタなのではなかろうか。

[random_button label=”他の「ハナシ」を探す” size=”l” color=”lime”]

コメント

タイトルとURLをコピーしました