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たむけの歌
おなじみの熊さん八っつぁんの二人連れ、呑気な上方見物の旅に出、名所古跡を回って、上方戻りの旅路につく。
その道中で馬子に出会い、「どうだね、お二人乗らんかね」と声をかけられる。
「次の宿場まで何里あるかね」
「二里だあ」
「随分あるな、だが馬一匹じゃ仕方あるまい」
「なに、ようがす」
「ようがすって、二人乗るんだぜ」
「かまわねえでがす」
「テメエがかまわなくたって、こっちがかまわあ」
「へへへへ」
「といってもちょっと足が棒になった」
二人は交代交代馬に乗って行くことにした。
「今度の乗り賃はいくらなんだい」
「二里の道ですからせめて十両」
「べらぼうめ、ふざけちゃいけねえ」
「さあ乗ろう」
「おやおや、この馬には首がねえ」
「なるほど、不思議だなあ」
馬子はゲラゲラ笑いだして、
「旦那、馬の首は後ろにあるだよ」
「よせやい、バカにしやがって」
こうして馬に乗った八っつぁん熊さん、馬子も面白がって色々と話しかけてくる。
「お前さんたち、江戸の衆だんな」
「商売もわかるかい」
「さあ」
「こう見えたって自慢じゃねえが役者なんだ」
「それにしたって色が黒いね、錦絵の市川團十郎と違ってどっちも背が低く鼻がペシャンコで目も小せえな」
「遠慮のねえ野郎だ」
そうこうしている内に、保土ケ谷。そこで八っつぁんと別れた、熊さん、歩いて家に帰る。
家に帰るとおかみさんが
「お帰りかえ」
「物珍しそうにヘンテコな顔をするねえ。それはそうと留守中になにかなかったか」
「そうそう、お前さんも世話になったお隣の旦那が死んだよ」
「そいつは大変だ、なんでそれを早く知らせねえ」
「早くも何もお前さん今おかえりじゃないか」
「そうだった……ところでいくつでお陀仏になったんだ」
「お前のほうがよほど口が悪いじゃないかね。今年四十二の厄だよ」
「じゃあ死ぬのは当たり前だ」
そんなことを言いながら、熊さんは隣の家に弔問に出かける。
仏壇の前でお位牌に焼香すると、かたわらに黒髪と短尺がぶら下がっている。
「これはなんのおまじないです?」
未亡人に尋ねると、
「歌を読んでごらんなさい」
熊さんは短冊を手に取って、
「ながかれといのるいのちはみじかうていらぬかたみのかみのながさよ」(長かれと祈る命は短うていらぬ形見の髪の長さよ)
「わかりますか」
「軽蔑しちゃいけねえ」
良い事を知った熊さん急いで家に戻ると、
「不貞腐れめ」
「なんだい突然」
「早く布団を出してくれ」
「どうしたんだね」
「早く出してくれ」
「あいよ」
「ってなんだこりゃ。布団が馬鹿に短いじゃねえか。マヌケめ。足が二本出てらあ。三本ありゃあバケモンだが。」
「どうしたんだね」
「べらぼうめ、てめえには亭主がこんな憂き目を見ても歌が詠めねえのか」
と熊さんの難題におかみさん、「ながかれとおもふふとんはみぢかうていらぬていしゅのあしのながさよ」(長かれと思う布団は短うていらぬ亭主の足の長さよ)
『読売新聞』(1927年3月25日号)
柳亭左楽が時折やったという。諸氏に尋ねたところ、「手向けのかもじ」が一番近いようである。『落語辞典』を読み直したら、これとほぼ同じ噺があった。
速記がない、と記載されているが柳亭左楽の放送記録はほぼ速記に近い。
古典的な味わいがあるだけに、相応に面白くは聞かせそうである。余計な枝葉を切り落として小咄風にやれば、それはそれでええのではなかろうかね。
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