シシとスシの一字違い 伊藤左千夫

[random_button label=”他の「ハナシ」を探す” size=”l” color=”indigo”]

シシとスシの一字違い 伊藤左千夫

 根岸庵を訪ねた歌人の伊藤左千夫、訛り丸出し野大声で、「今日はシシを持ってきた!」。
 これを聞いて喜んだのは俳人の河東碧梧桐で、すぐさま七輪に火を起こし、座敷に運び届けると、伊藤左千夫は怪訝な顔をしてる。
「どうしたんだい」
「どうしたも何もなんで七輪なんか持ってきたんだ」
「だって左千夫くんはシシを持ってきただろう」
「上段じゃない、僕が持ってきたのはスシ(※シシ)だ」
 伊藤左千夫は包みを解いて寿司折を見せつけた。
 伊藤左千夫の訛の激しさにとんだ粗忽をした一席。

河東碧梧桐『子規を語る』

 伊藤左千夫は、正岡子規の門弟で、子規の衣鉢を継いで近代短歌を完成させた一人である。
 また、悲恋小説『野菊の墓』の作者としても知られる。明治の小説ではあるものの、純朴で儚い青年の恋模様は今なお読みつがれる作品となっている。

 柔らかな作風を持ち味とした伊藤左千夫であったが、その素顔は実に男臭い酪農家という『野菊の墓』のイメージなどからもっともかけ離れた、いわば「野の人」のような感じであったという。

 訛り丸出しで土や乳臭い手や足を全くいとわず、あぐらをかいて茶やら牛乳を飲み干すーー豪快な人物であった。

 その一方で、ど近眼で心配性、茶道や政治を嗜むなど、知的でおとなしい性格も有していた。

 そんな左千夫の豪快な方のエピソードである。

[random_button label=”他の「ハナシ」を探す” size=”l” color=”lime”]

コメント

タイトルとURLをコピーしました