大山鳴動して……?(都新聞芸能逸話集)

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大山鳴動して……?(都新聞芸能逸話集)

初役を売物の吉右衛門の丸橋忠弥大詰の捕物では忠弥一人に、楽屋の手あき連が全部捕手となり舞台に現れて御用々々の大騒ぎ、この時三階から一声かゝる、大山鳴動してチュー弥一匹

1930年10月9日号

 今は無き東京劇場の1930年10月公演は、吉右衛門一家と澤村宗十郎を中心とした興行で、盛綱陣屋、一人旅二人旅、らくだ、慶安太平記という新作と古典のないまぜ興行であった。

 当時の名優として人気を博していた中村吉右衛門は、この頃脂がのっていた事もあって、多くの新作や初役をこなした。骨太な芸風を目指したようであるが、必ずしもうまくいったわけではない。一方で滑稽物や新作で独自の領域を開拓したりもした。

 初役の丸橋忠弥は、吉右衛門が私淑していた初代市川左團次が開拓した演目である。吉右衛門は左團次系の骨太な演目をいくつか物にしていた。

 慶安太平記や由井正雪の話をご存じの方なら、いわずもがなであろうが、丸橋忠弥は国家転覆の野望を持つ革命家の話である。

 義理の親や世間の目の心配をよそに、泥酔し、日々遊び惚けている丸橋。実はその泥酔は世間を欺くための芝居で、由井正雪一味と手を組んで、いつか実行する江戸城総攻撃の為にあれこれとスパイを行っていたのである。

 そんな野望の心を、江戸城の堀端であった松平伊豆守に見破られそうになる。とっさの嘘でごまかすが、この後、丸橋は酒に酔った勢いで義父に「幕府を洗い直す」と革命の計画を話してしまう。義父は同調する振りをして、松平伊豆守にこれを訴え出てしまう。

 謀叛人として、役人に取り囲まれる丸橋。槍の名手として奮戦するが多勢に無勢では到底かなわず、最後は血まみれになりながら、役人に取り押さえられる――というのが見ものである。

 この大迫力の大立ち回りが売りなわけであるが、東京劇場ではこの捕手役人をやたらめったら出したものだから、舞台が凄まじい事になったようである。

「大山鳴動して……」とは「大山鳴動して鼠一匹」のこと。すなわち、「事前の騒ぎばかりが大きくて、実際の結果が小さいこと」ということであるが、ここでは「たった一人の為に、多くの役者を使い過ぎ」という意味でもいいだろう。

 こうしたチグハグな態度を三階席(常連や古老たちがよく集った所から、転じてうるさ型を意味するようにもなった)が「大山鳴動してチュー弥一匹」と、鼠の「チュウ」と「忠弥」にかけて洒落た次第である。

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