病院脱走した坂口安吾とそれを受け入れた豊島与志雄

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病院脱走した坂口安吾とそれを受け入れた豊島与志雄

 坂口安吾は豊島与志雄のことを「奇人変人」ではなく、「仙人」とよんでいた。その訳は「無類の無欲。豊島さんは俗物や自己の妄執を乗り越えて泥のようになった人である」と評価していた。わかるようなわからないような。
 ある時、坂口安吾が睡眠薬の飲み過ぎで精神病院に入れられた。気の荒い安吾、収まって入院する人間ではなし、人気のないのを見計らって脱走し、その足で豊島与志雄の家へ遊びに行った。
普通の人なら驚くものを豊島与志雄は平然と坂口安吾を家にあげて、奥からなにか薬を持ってきた。
「これは娘のために無理して探したパンスコだが……あまってるからあげようか。」
 安吾は娘の形見として劇薬を出す豊島与志雄に驚いて、流石に辞退をしたという。
 因みに坂口安吾が訪ねてくる日の朝、豊島はカストリ酒を飲み過ぎて野原で爆睡、警察に怒られたばかりであった。

坂口安吾『豊島さんのこと』

 坂口安吾は無頼派を代表する作家として、太宰治と並ぶ人気を得ている。

 陰鬱的であった太宰とは違い、凄まじくエネルギッシュな人で、身体も精神も構わず猪突猛進する所などは、違う意味で「破滅」敵だったのかもしれない。

 坂口安吾というと、「酒・覚せい剤」という変なイメージがつきがちだが、実際愛用していたのは、酒や覚せい剤よりも「アドルム」という睡眠薬であった。これを一度に数十もバカ飲みして滅茶苦茶になった所で仕事をする――常人なら死に絶えるのがザラであろう(アドルムの致死量は約10粒ともいう)。

 そんな坂口安吾だけあって、他者に対する批判や暴言も厭う事なく、多くの関係者から批判されたり、煙たがれたが、豊島与志雄だけは、坂口安吾よりも一枚上手の存在として鷹揚に構えていた。

 おかしいのは、太宰治もまた豊島与志雄をひどく懇意にしていたという所。

 そんな豊島与志雄の豪胆さを伺える逸話である。

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