酒を言い訳にする事はやましい事の葛西善蔵

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酒を言い訳にする事はやましい事の葛西善蔵

 葛西善蔵は大酒酒乱で有名で、文壇随一の酒豪であった。
 ある時、親しい友人と鳥料理を食べに行った。相変わらず食事よりも酒を鯨飲する葛西善蔵を見かねた友人が、
「酒の飲み過ぎは胃癌になるからと言われて酒を愼んでいる」
 というと、葛西善蔵は、不快感あらわに、
「それはいかん!」と怒り始めた。
「胃の悪いのは仕方ない。しかし、それを酒のせいにするのがよくないことだ!」
 と、友人を怒鳴り散らした挙句、酒に向かって、
「そういう時は酒に対してあやまらなければならない……酒さん酒さん、私の胃が悪いのは決してあなたのせいではありません。こちらの胃に非があるのです。どうかどうか堪忍してください……決して、自分の悪いことをあなたに被せるような不心得はいたしませんから……」
 と懺悔をはじめた。

『現代日本文学全集100』

 葛西善蔵は、ポスト自然主義の第一人者で、破滅的な生涯を送った。酒におぼれ、女に溺れ、最後は病気と貧困と戦い続けた。性格は滅茶苦茶で、酒癖は最悪、文学とあらば、同級や友人でも平然とこき下ろし、喧嘩も辞さない態度は「文学道場」と揶揄されたほど。広津和郎は「友人であろうがなかろうが見境ない」と回顧しているが、そういった破滅的な人生の中で、多くの佳作を綴った。破滅的な人生を基盤にしつつも、格調高い私小説は、好き嫌いこそ別れるものの、読むものを引き離さない強味がある。天才と狂気は何とやら、という見本であろう。そんな葛西善蔵の一番の好物で、かつ生涯の欠点となったのが「酒」であった。飲みだしたら終わらない、質の悪い酒であった。そのくせ、「酒に罪はない」と吹聴し続けたというのだから、破滅を自ら任じているようである。そんな葛西善蔵の飲酒哲学を端的に示した逸話である。

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