物語「甲斐の祐天・お糸の仇討」

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甲斐の祐天・お糸の仇討

 山本仙之助こと祐天仙之助は幕末に活躍した侠客。
 男っぷりがよく、懐の広い親分として幕末の動乱の中で侠客界を取りまとめた。
 その祐天が若い頃、甲府の豪商・奈良屋の娘、お糸と恋仲になってしまう。
 当然、奈良屋の一族は大反対。しかし、お糸はどこまでもついていく心なので祐天はその心を汲み取って駆け落ちしてしまった。
 知り合いの秋葉の小松屋という男を頼り、転がり込んだ祐天夫妻。
 しかし、小松屋は大変に悪い男で自分の悪事を祐天になすりつけて訴え出て、祐天を牢屋にぶち込んでしまった。
 牢屋の中で鬱屈した日々を過ごす祐天。
 そこで顔見知りとなった牢番の忠太という男に、
「お糸はどうなった?」
 と尋ねると、忠太は、
「実は……」
とシャバの世界を話し始めた。
曰く、祐天に罪をなすりつけた小松屋はそれのみならず、お糸の美貌に目がくらんだ。
 まずは口説こうとしたがお糸は祐天に操を立てるつもり。腹を立てた小松屋は、山形屋という悪徳商人と手を組んでお糸を女郎として売ってしまった。
 しかし、そこでも祐天に操を立てようとするために、小松屋と山形屋は激怒。
 大雪の降る夜に、彼女を薄着一枚で放り出した挙げ句、杖やムチで散々殴り倒し、殺してしまったという。
 それを聞いた祐天は愕然とし、牢屋の中で号泣する。
 そして、牢屋の格子を壊さんばかりに「一生の頼みだ、俺をここから出してくれ。小松屋と山形屋を殺さにゃ男が立たねえ」と忠太に頼み込む。
「牢番が囚人を外に出す……そんなバカな話があるか」
 と、忠太は呆れるが、泣いて頼み込み、無実を訴える祐天の男気、話に心動かされた忠太、牢をそっと開けて祐天を見逃す。
 祐天は忠太に感謝をしながら、牢屋を抜け出した。
 山形屋に殴り込むべく、まず故郷への道を辿る。しかし、長い間の牢屋生活と空腹に耐えかねて、近くの野中の一軒家に訪ねる。
 その一軒家は隠亡(火葬業者)の屋敷で、人気の少ない所であった。
 懐にあった金を出して、飯をあつらえてもらった祐天。腹ごなしをして一服していると、隠亡たちが「これから仕事だ。また亡骸がやって来たな」という。
 気になった祐天がそれとなく尋ねると、「女の仏さんだ」という。更に尋ねると、どうも聞いたことのある身の上。
 隠亡の静止を振り切って、運ばれてきた早桶を蹴飛ばして中を改めると、果たして女房お糸の亡骸。
 寒さと雪であちらこちらが色褪せ、髪はざんばら、身体中傷だらけ、無念と苦悶を浮かべた無惨の姿。祐天はお糸に取りすがって泣き叫ぶ。
 隠亡は、泣き叫ぶ祐天に、「死んだものは仕方ない」と諭すが、怒りと無念に燃える祐天が聞くはずもない。
 お糸の亡骸を背に、隠亡の意見を振り払った祐天は、山形屋へ乗り込もうとするが、ふと我に返って、
「一人殴り込みをしたところで返り討ちをされてはしようがない」
 と思い直し、甲州路を辿って上州(群馬県)を尋ねる。
 そこで草鞋を脱いだのが、関東きって大親分で「鬼より怖い」とあだ名された国定忠治。
 国定忠治に面会した祐天は事のあらましを洗いざらいに白状する。
 義理人情に厚く、卑怯を誰よりも嫌う国定忠治は、祐天の身の上と決意に感心して、身の回りの世話と金品を分け与え、仇討を遂げる日までのサポートをする。
 そして、山形屋と小松屋が手薄になる日にちを、忠治から教えてもらった祐天は、釜入峠に待ち構えた。

 何食わぬ顔でやって来た一行の前で、名乗りを上げた祐天。忠治一家の助太刀を得て、女房を惨殺した小松屋、山形屋を斬り殺し、お糸の無念を晴らしたという。

 祐天仙之助こと、山本仙之助は、幕末の山梨で暗躍をした侠客である。兎に角腕が立ち、ライバルの黒駒勝蔵などとも拮抗を続けた。

 また、幕末の尊王攘夷に感化されてか、「浪士組」の結成に参加。近藤勇や芹沢鴨と共に京都に上り、尊王攘夷運動に携わるが、間もなく決裂。

 近藤たちは京都に残って「新選組」を、江戸に帰った一派は「新徴組」と名乗り、それぞれ開国派などの暗殺や対決を繰り返した。

 山本仙之助は「新徴組」に属し、隊士の一人として暗躍を続けていたが、隊士の中に仙之助と因縁を持つ者があり、彼らの手によって暗殺されるという非業の死を遂げた。

 隊士的な意味で語られる山本仙之助であるが、若い頃は黒駒の勝蔵などと拮抗し、国定忠治などとも仲が良かったことから、多くの話が作られた。

 この「お糸の仇討」も仙之助伝説の一つである。伝説なので信憑性は兎も角、こうした話が一層仙之助の豪傑エピソードに拍車をかけたのだろう。

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