タバコ嫌いの上司小剣

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タバコ嫌いの上司小剣

 上司小剣は大のタバコ嫌いで、目の前でタバコを吸われると応接間だろうが、会議室だろうが、電車の中だろうが、嫌な顔をして相手の方へ煙を払うクセを持っていた。
 ある時、友人の伊庭孝や野村胡堂が遊びに来た。
 伊庭孝は、好人物であったがこちらは大の愛煙家。上司小剣の前で平然とタバコを吸う。
 そんな伊庭に閉口した小剣、野村胡堂にむかって大声で、
「伊庭くんはひっきりなしにタバコを吸う。後で家中が臭くなるのは閉口だ」。

野村胡堂『面会謝絶』

 上司小剣は、自然主義文学からスタートし、敗戦直後に亡くなるまで(1947年没)、多くの随筆、小説を残した作家である。

 幼い頃の記憶を巧みに織り交ぜて描いた私小説の『鱧の皮』は、今なお大阪を描いた文学の佳作として、評価されている。兎に角関西の市井の情緒を織り込むのが得意で、饒舌的な文体や構成を得意とした。

 さらに、新聞記者であった経歴から、人付き合いが得意で、田山花袋、正宗白鳥、徳田秋水といった作家だけではなく、堺利彦、幸徳秋水といった思想家、野村あらえびす、伊庭孝といった文化人とも交流が深かった。

「読売新聞文芸部長」という仰々しい肩書を持つ一方で、当時としては珍しい「蓄音機オタク」で、新しい機材や音響が出たのを知ると喜んで買いに求める、「超」の付くマニアであったという。

 その散財ぶりは、今日のオーディオオタク顔負けのそれだったという。

 そんな趣味からか、レコード鑑賞を生きがいにしていた野村あらえびすこと野村孤堂とは仲が良く、晩年まで深い交際があった。 

 基本的にはジャーナリスト気質の人間だったというが、直言や放言をまるで気にしない性格で、そんな所から誤解や顰蹙を買うようなこともあったという。

 そんな上司小剣らしい逸話の一席。

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