掃除好きな与謝野鉄幹、意外とズボラな与謝野晶子
与謝野鉄幹は、なかなか綺麗好きで万事に細かい注意を払うのを旨としていた。
『現代日本文学全集100』
一方、与謝野晶子は、お嬢様育ちゆえか、自分の仕事場に対して深く気にすることはなかったという。もっとも、子育てが忙しすぎて仕事場が二の次になる――という事情もあったようだが……。
鉄幹は仕事場の衛生にうるさく、少しでも気に入らぬ点があると妻だろうが子供だろうが容赦なく片付けを始めた。
一方の晶子は、汚れていようが子供が騒ごうが平然としていたという。
そうした考えの違いでたびたび喧嘩をしたというが、後年は、愚痴愚痴言いながら掃除をする鉄幹の姿を、晶子は慣れた様子で見ていたという。
月日が流れて、鉄幹は晶子を残して死んでしまった。
すると、娘の一人、藤子が鉄幹亡き後の机を見ながら、しみじみと「パパがなくなって、傍から片付ける人がいないので、これからママの机の上は、さぞかし汚くなるでしょう」と呟いた。
貧乏な寺で厳しく育てられた与謝野鉄幹と、老舗和菓子屋で育てられた与謝野晶子――ある意味では身分違いの恋を貫徹した二人であったが、そうした育ちの違いから若い頃は随分と喧嘩をしたという。
食事などがいい例で、何膳も出す事を良しとして育った晶子に、鉄幹は「贅沢だ。一汁一菜にしろ」と叱って、その価値観の違いが出てしまう事になった。
それでも後年は折り合いがついたのか、良き両親になったのは皮肉なものである。
そんな潔癖で清貧的な所の抜けない鉄幹と、意外と図太い晶子を対比させたいい逸話である。
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